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ドナーと家族 20(2006.06.21)
二女理恵さんの思い出を語る田中さん=都内の自宅前

患者7人に臓器提供/娘の”メッセージ”実現
  高校生が着席した水戸葵陵高(水戸市)の講堂にカーペンターズの曲が流れる。ステージ正面に女性の笑顔がアップで映し出された。「皆さんに紹介します。これが私の娘田中理恵です。これは理恵が好きだった曲です」。田中和行さん(63)=東京都=が亡き二女理恵さんを紹介した。理恵さんは約5年前に脳死で心臓、肺、肝臓、すい臓、腎臓を7人の患者に提供した臓器提供者(ドナー)だ。
 理恵さんが「病院に運ばれた」という連絡を受け、田中さんは妻、長女とともに病院に駆け付けた。当時理恵さんは27歳、独身で会社員。活発でちゃめっ気があり、海外旅行が好きな行動派の女性だった。
「カードを持っているよ」
 医師は「理恵さんは脳死状態で、回復は難しい」と沈痛な表情で話した。すると長女が「理恵はカードを持ってるよ」と打ち明けた。「カードって何」。田中さんは思わず聞き返していた。臓器提供意思表示カードだった。医師に相談すると「現物を見てみないと分からない」という。長女と妻が自宅に戻り持ってきた黄色いカードを医師に見せると「内容は有効で、臓器提供が可能です」と言う。
 医師や看護師の説明を受けた後、3人は待合室で約1時間話し合った。「これは理恵の貴重なメッセージじゃないのか。遺言を実現させてやろう」「親せきやほかの人に何か言われても3人で理恵を守ろう。それが理恵にしてあげられることだ」
条件を付けて提供に同意
 決断を医師に伝え、日本臓器移植ネットワークのドナーコーディネーターから説明を聞いた。病院の窓から外を見ると、マスコミのカメラマンや記者が病院前に殺到しているのが見えた。田中さんは「マスコミを病院に入れない」「臓器を入れるボックスは撮影しない」などの条件を付け、提供に同意した。
 田中さんは臓器摘出のため手術室に向かう理恵さんの手を握って声を掛けた。「理恵、頑張れよ。お前の言う通りにしたよ」。最後の表情は静かな笑みをたたえているようにも見えた。
 摘出手術を終え霊安室に入ると医師、看護師ら約200人の病院職員全員がずらりと並び、次々に焼香が行われた。薄化粧の理恵さんはカサブランカの花でいっぱいの棺(ひつぎ)の中にいた。「理恵、手術は大成功だよ。よく頑張ったね」。3人の涙が止まることはなかった。
 
 


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