『医療危機 ’09ふくしまの現場から』TOP
 専門医志向
【2】―2009.03.17
「患者、医師双方の意識改革が必要」と語る篠原所長
■救急患者の搬送拒否 

 「満床」「専門医がいない」などの理由で病院が救急搬送の受け入れを断り、患者が死亡に至るケースが全国で相次いでいる。県内では昨年、郡山市と矢祭町で発生、県は医療機関や消防と対策を急ぐ方針を確認している。
第2部
救急医療
 
― 敬遠される専門外  ―
 
 昨年2月、太田西ノ内病院救命救急センター(郡山市)など同市内の5病院で受け入れを断られた女性が別の搬送先で死亡した問題。救命の「最後のとりで」となる同センターまでもが受け入れできなかったことが、救急医療のもろさを浮き彫りにした。
 同センターの篠原一彰所長(46)は「昨年の受け入れ患者数は、12年前の約2倍だが、センターの医師数は変わらない」と語る。県医療計画によると、県全体の救急搬送は2006(平成18)年までの10年間で約1.4倍の増加で、同センターの受け入れ患者数の急増ぶりが際立つ。昨年2月に女性の搬送を要請された際も、満床で処置室にも患者がいた。
 命にかかわる重症患者が増加したわけではない。篠原所長は、患者の専門医志向が背景にあると考える。患者は、夜間や休日でも症状に応じた専門医による診療を求める。各病院の医師も呼応するように、救急で専門外の患者を診ることを敬遠するようになった。結果として「どんな症状でも診る」(篠原所長)という同センターに患者が集中する。
 専門医志向は救急病床の確保も難しくしている。患者、家族は高度な医療機器が整っている救急病床を専門的な治療が受けられる最上の環境と認識、症状が改善しても転院を嫌う。篠原所長は「次の患者のために、土下座でお願いして移ってもらったこともある」。
 急病という非常事態で、患者、家族が最上の診療を求めるのは必然−。篠原所長はそう理解しているが「本県の医療資源が限られていることは分かってほしい」と言う。救急を敬遠しがちな医師にも「専門外であっても救急患者は診る心構えが必要」と苦言を。日本救急医学会は昨年12月にまとめた国への提言で「専門外への対応について責任範囲を明確に定め、医師が救急医療に参画しやすい体制をつくる」ことを求めた。
 篠原所長は患者、医師に警鐘を鳴らす。「双方が現状を理解して意識を変えないと、受け入れできずに患者を死なせる悲劇が、また起こる」
 


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