私の中の若冲(7)エネルギー満ちている 西田敏行さん

 
「若冲はバイタリティーあふれる人物だったのだろうと感じる」と話す西田さん

 福島市の県立美術館で開かれている「東日本大震災復興祈念 伊藤若冲(じゃくちゅう)展」で、館内の作品を音声で紹介する「音声ガイド」を務める郡山市出身の俳優西田敏行さん(71)。かつて江戸の絵師を演じたことから、天才絵師伊藤若冲(1716~1800年)には大きな興味を持っていたという。東京都内で行われた音声ガイドの収録で西田さんは、味わい深い語りで作品を表現していった。福島民友新聞のインタビューでは展覧会への期待なども語った。

―音声ガイドの収録では、どのような表現を目指したか。

 「音声ガイドを担当するのは今回が初めて。昔の作品だから、絵のタイトルも含めて難しい単語がたくさん出てくる。耳で聞いてちゃんとイメージできるようにしたいなと心掛けました。(見ると意味が分かる)文字で読むのとは違いますからね」

―収録をしていて、興味を持った部分は。

 「僕は20代のころ、芝居で写楽(東洲斎写楽。江戸中期の浮世絵師)を演じているんですよ。絵師と呼ばれる人たちについて勉強もして、若冲には以前から興味があった。若冲は北斎(葛飾北斎。江戸後期の浮世絵師)とちょっと感じが似てますね。80歳を過ぎても一生懸命絵を描いていて。もっとも、北斎は極貧で、若冲は豊かな生活を送っていたわけだけど」

―若冲に対してどのようなイメージを抱いているか。

 「バイタリティーあふれる人物だったんだろうと感じる。小説家で言ったら漱石(夏目漱石)みたいなね。遊びながら、というか、本当に純粋に、絵が描きたくて描くというエネルギーに満ちている」

―今回の展覧会は、多くの方に福島に来ていただきたいと企画した。震災、原発事故から8年がたった福島をどう見るか。

 「この間、原発事故によるいわゆる立ち入り禁止区域の辺りまで行って様子を見てきたんですが、やはり人のいない町を見るとさみしい気持ちになりますねえ。一方で一生懸命歯を食いしばって頑張っている人もいる。そういう意味では、半分希望に満ち、半分脱力感がある、復興まだ半ばという感じですね」

―展覧会をきっかけに本県を訪れる人に言葉を掛けるとしたら。

 「原発事故があって苦しんでいる福島だけじゃなくて、広い県内にいる多種多彩な人たちの息吹を感じていただきながら、おいしいもの、温泉、素晴らしいものがいっぱいあるので、味わっていただきたいと思います。若冲が生まれた京都の京野菜にも負けない、福島の野菜を食べてほしい」

―県民にメッセージを。

 「長い道のりになるかもしれませんけど、諦めなければ必ず日は差します。口角を上げて、にっこり笑って過ごしてほしい。そうすることでご自身の中での復興が見えてくるかもしれませんので。物理的な復興はちゃんと進みますから、しっかりと心の復興をしていただきたいと思います」

にしだ・としゆき 郡山市出身。代表作「釣りバカ日誌」「学校」「植村直己物語」などの映画をはじめ、舞台、テレビなど幅広く活躍。NHK大河ドラマ「八重の桜」にも出演した。歌手として「もしもピアノが弾けたなら」がヒットし、NHK紅白歌合戦に4回出場している。県民栄誉賞、みんゆう県民大賞受賞。