【陸前浜街道・全6回(1)】 「勿来の関」歌人に愛され

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多くの歌人が歌を残した勿来の関。現在は名所として観光客が足を運ぶ

 江戸時代初期、現在の茨城県境を越え本県を訪れた旅人を迎えたのは、陸前浜街道の本県側の南端に位置する関田宿だった。近くに勿来の関があり、多くの歌人が勿来の関を題材にした歌を詠んだ。明治時代初期ごろからは文学ファンが訪れるようになり、現在も観光客の姿が多い。いわき市の名所の一つとして知られるようになったが、実際に関所として機能していたかは定かでない。歴史をたどれば関所として使われていた可能性は低く、「歌のイメージが生み出した関所」とされている。

 浜の「動脈」に沿うように現在は国道6号が走る。国道を茨城県から北上して本県に入ると、右手に太平洋が広がる。歩みを進めると、程なくして勿来の関へといざなう門が見えてきた。長い坂道と並行して松が植えられている。最高気温が25度を超え、照りつける日差しで額に汗がにじんできたが、松の木陰と、吹き抜ける爽やかな潮風ですぐにひいた。

 坂を上り切ったところにあるのは勿来の関碑と平安時代の武将、源義家の像。義家は「吹風を なこその関とおもへども 道もせにちる山桜かな」と詠んだ。「花を散らして吹く風は勿来の関には来ないはずなのに、山桜が道いっぱいに散っている」などと訳されている。春になれば植樹された桜が咲き誇るが、往時は、自生していた山桜が見事な花を咲かせていたのだろう。

 義家だけでなく、紫式部や小野小町、紀貫之など有名な歌人が勿来の関を詠んだ。その数は確認されているだけで192首に上る。1600年代前半には、歌に詠まれたイメージから、東北の太平洋沿岸の海の見える高台に勿来の関があったとする説が生まれ、磐城平藩が桜を植え、ほこらを建てたと考えられている。勿来の関公園内にある勿来関文学歴史館学芸員の馬目聖子さん(31)は「勿来の関は歌人たちの歌のイメージに支えられてきた関だと思います」と説明する。

 同公園内には「詩歌の小径(こみち)」と呼ばれ、昭和初期に整備された遊歩道がある。松に囲まれた歩道の傍らには歌碑が立ち並ぶ。趣深い石畳の道で歌を眺めながら歩くと、歌人の思いが伝わってきた。小径を過ぎると、高さが人の背丈ほどあるガラス製のオブジェにたどり着く。小野小町の歌が張られているオブジェを通して、穏やかな太平洋が見えた。

 関田宿から新田宿があったいわき市渡辺町に続くルートは、海沿いを走る現在の国道とは異なり、少し内陸に食い込んでいる。同市植田地区を過ぎると、カエルの鳴き声が心地よく聞こえる田園風景が広がり、小高い峠を越えると、新田宿に入った。

 同市渡辺町には旧街道とみられる道がそのまま残る。メーンの通りから右手に入る道が旧街道とされ、現在は両脇に住宅が立ち並ぶ。当時は宿のほか、酒屋や油屋、食事どころなどが軒を連ね、行き交う人でにぎわっていた。「先祖代々の土地に暮らす人々の間では当時の名残として『福田屋』『久保木屋』など屋号で呼び合うことがある」と地元の民生委員の遠藤靖さん(75)が教えてくれた。地域を挙げて宿場にちなんだイベントを行った時代もあった。「地元を愛し、若い人にも、自分が生まれた地域を見つめ直す機会をつくってほしい」と話す遠藤さんは少しさみしそうだった。

 町おこしの一環として江戸時代そのままに、旧街道を復活させようと、山の中の獣道を切り開いたこともあったが、今は草が生い茂り、面影はなかった。

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【 記者の「寄り道」スポット 】

 勿来海岸近くの温泉施設、太平洋健康センター勿来温泉関の湯(電話0246・65・1126)=写真=は、天然温泉風呂や海を見渡しながら湯船につかる源泉露天風呂など13種類の風呂を楽しめる。
 地下1000メートルから豊富な塩化物温泉が湧き、泉温は約40度。館内ではマッサージやエステも受けられる。時間は月~木曜日が午前10時~午後11時30分、金~日曜日と祝前日は午前10時~翌日午前9時。

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 勿来の関公園内にある吹風殿(すいふうでん)=写真=は、平安時代の代表的建築様式である寝殿造りの体験学習施設。平安時代の雰囲気を味わいながら歴史、自然に触れる総合学習の場だ。野だて、歌会、伝統芸能など発表の場として利用できる。
 開館時間は午前9時~午後5時。毎月第3水曜日が休館。問い合わせは勿来関文学歴史館(電話0246・65・6166)へ。

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 いわき市植田町の多安房(たあぼう)(電話0246・63・2667)は、トンカツを中心にボリュームたっぷりのメニューをそろえる。一番人気のヒレ梅かつ定食(税込み1500円)=写真=は、分厚く軟らかいヒレ肉がさくさくの衣に包まれている。1965(昭和40)年の創業から、50年間同じ味を守ってきた。特にこだわりはソース。創業当時のままで常連客に愛され続けている。

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