【越後街道・全3回(2)】 信仰集める塔寺、恵隆寺

 
古い建物が残る気多宮宿の街並み。往時を思わせる雰囲気を今なお残す

 越後街道の旅も中盤。会津盆地西端の会津坂下町から磐梯山を背に、西の山間部へと進む。

 同町中心部にある商業で栄えた宿場の坂下宿へ。1611(慶長16)年の慶長会津地震で道筋が一変したことで宿駅が整備され、人馬の往来の激しい交通の要衝となった。

 現在の基盤となる町割り(土地の区画整備)は1625(寛永2)年に行われた。大通りの中央に水路が引かれ、近くの村里の物資が集積された。頻繁に開かれた定期市では商品が盛んに売り買いされ、宿場は拡大していった。江戸初期に約200軒だった家の数は、江戸中期に倍増していく。

 「(昭和初期は)行き交う商人で活気にあふれた」。明治期に運送業をしていた商家に生まれた自営業大堀順一さん(81)=同町飲食店組合長=は語る。現在も間口が狭く奥行きがある店が連なり、繁栄の面影は残るが、昭和中期から活気を失い始めたという。「子どものころのにぎわいが懐かしい」と話す。

 繁栄の名残は、豊作などを占うため現在も毎年1月に行われている「俵引き」行事に残る。会津藩の地域特性をまとめた地誌「新編会津風土記」は藩内各地で行われた俵引きのうち、「坂下宿が最も壮観で見物人が多かった」と伝えている。往時のにぎわいはどれほどかと思いを巡らせながら、宿場を後にした。

 山間部に差し掛かると、手前から塔寺、気多宮と隣り合う宿場に到着する。慶長会津地震による街道変更で発展したが、もともとは「立木観音」で知られた由緒ある恵隆寺や、杉木立に囲まれた心清水八幡神社の門前町として栄えた。今も広く信仰を集め、観光バスがひっきりなしに訪れる。

 気多宮宿の端には、越後街道と沼田街道(奥会津方面に向かう道)の分岐点を示す古い道標「追分石」が残る。宿場には旅籠(はたご)や商家、運送業者などの店が立ち並び、参詣者や商人らで繁盛した。気多宮宿の商家に生まれた平野美起子さん(66)は「商売を続けている家は減ったが、屋号は今も家々に残る。宿場の文化を残したい」と誓う。

 塔寺出身の有名人に戦後のスター歌手、春日八郎(本名・渡部実)がいる。生家跡は街道沿いにある。

 泣けた 泣けた
 堪(こら)え切れずに泣けたっけ
 あの娘(こ)と別れた哀(かな)しさに―。

 代表曲「別れの一本杉」の舞台は塔寺ではないが、春日は故郷を思い浮かべて歌った。恵隆寺に歌碑があり、時刻を知らせる町内の防災無線でも流れる。時代は違えど、「追分の宿場町」と「別れの一本杉」の世界観が重なった。

 鐘撞堂(かねつきどう)峠を越えると、只見川の渡し場である舟渡宿と片門宿に着く。渡しは、幕末に船を並べて板をつなげた「船橋」となり、大正期まで残った。坂道を進むと、街道で南北に向かい合う天屋宿と本名宿がある。枝分かれした松があることから、その名が付いた束松峠の道端には石仏や供養塔が残されている。

 「越後街道と(会津と新潟を結ぶ道路整備事業の)会津三方道路の建設には深い関係がある」と指摘するのは元同町史編さん専門委員の古川利意さん(90)。

 1882(明治15)年の会津三方道路建設では、束松峠の掘削が困難を極めたため藤峠を経由する経路に変更となり、宿場は廃れた。住民は束松峠に人力で約250メートルに及ぶトンネルを開通させたが、失ったにぎわいは戻ってこなかった。「道路建設の影に、憂き目にあった人が大勢いるが、忘れられてしまっている」。住民の苦しみを伝承する必要を感じた。

越後街道

【 記者の「寄り道」スポット 】

 会津坂下町塔寺にある国指定重要文化財「恵隆寺観音堂」=写真=は鎌倉期の和様建築物。本尊は「塔寺の立木観音」として親しまれる国指定重要文化財「千手観音立像」。像の高さは7.4メートル(総高8.5メートル)で、立木仏としては日本最大級。拝観時間は午前9時~午後4時。拝観料は300円。問い合わせは恵隆寺(電話0242・83・3171)へ。

 会津坂下町塔寺の「心清水八幡神社」=写真。1055(天喜3)年に源頼義と源義家が奥州征伐の際、京都の石清水八幡を分霊して移し、戦勝を祈ったのがはじまりとされ、今年6月に御鎮座960年祭が行われた。会津松平家初代の保科正之の治世下で会津大鎮守に定められ、現在の社殿は1863(文久3)年に会津藩主松平容保(かたもり)によって建てられた。問い合わせは同神社(電話0242・83・2553)へ。

 歴史情緒あふれる会津坂下町塔寺を訪れた際には昭和初期から続く和菓子店「坂本屋製菓」のまんじゅう=写真=がお薦め。素朴な味が評判で店舗のほか、立木観音近くの売店でも販売している。値段は、観音まんじゅう(茶饅頭)とみそまんじゅうが80円(税込み)、黒糖栗まんじゅうが110円(税込み)。問い合わせは同店(電話0242・83・0982)へ。