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「果樹王国」崩壊の危機
「果樹王国」崩壊の危機
赤いリンゴがたわわに実る「果樹王国」福島。厳しい農業経営の現実の前に、温暖化の足音も静かに近づいている=福島市大笹生
第1部 熱くなるふる里

(1)リンゴに温暖化の足音 //寒さ足りず着色遅れ//  (08.01.03)
 「リンゴの着色がなかなか進まない」。ここ数年、県内の栽培農家から生育の「異変」を懸念する声が上がっている。秋の訪れとともに真っ赤に色づくはずのリンゴが、なかなか赤く染まらない。「色」はリンゴの市場価値を支える重要な要素。着色不良の要因の1つには、地球温暖化の影響が指摘されている。
 リンゴは気温が下がり果皮の色素アントシアニンの含量が増えると色づく。気温が高いと色素が増えず、着色は遅れる。農林水産省の実験では高温栽培で赤く染まらない「白いリンゴ」さえ現れた。気温上昇は収穫期も遅らせ、歯ざわりを左右する果肉の硬度が下がって品質が低下する。
 県農業総合センター果樹研究所(福島市)が測定した1996年から2005年まで10年間の年平均気温は13.3度。81年から89年の平均11.8度に比べ1.5度上昇した。また、県産リンゴの主力品種「ふじ」の生育では、81―90年の10年間と、96―05年の10年間の平均値比較で、発芽日で4日、満開日で5日早まっている。
 一方、「ふじ」は9月から10月にかけて気温が高いと成熟が遅れる。実際に成熟に要した日数は、81―90年平均の194日間から、96―05年には203日と、11日間延びた。果肉硬度も13.8ポンドから13.3ポンドに低下した。
 県内はリンゴなど寒冷地に適した果樹と、モモ、ブドウ、ナシなど暖かい気候に適した果樹が混在して栽培できる。まさに「果樹王国」。しかしリンゴ産地の中では温暖な地域に属するため、わずかな気温上昇でも影響を受けやすい。春の発芽・開花が早まれば「遅霜」の害を受け、秋に成熟が遅れれば品質は低下する。適温は6―14度とされ、このまま気温が上昇すれば県内はリンゴの適地から外れる。果樹王国は崩壊の危機を迎える。
 果樹研究所は、温暖化が果樹栽培にもたらす影響と対策について研究している。永山宏一専門研究員(49)は「長期的な展望で品種改良や栽培技術の改善に取り組まなければ取り返しのつかないことになる」と危機感を募らす。
 果樹栽培では、品種改良に取り組んでも成果が実証されるまで十年を要する。リンゴだと、新品種を植樹し、収益に見合う量が収穫できるまで、さらに約10年。その後、新品種が市場や消費者の評価を得られるか否かは不透明だ。「ふじ」が普及するまで、約50年を要したことを踏まえれば、急激な温暖化に農家経営を適応させるまで、残された時間は多くはない。
 一方で果樹農家は高齢化が進み、栽培面積は年々減少している。「温暖化の問題より、どうやって今の経営を維持していくかが農家の実態だ」。会津坂下町で果樹園を営む新国善幸さん(56)は、後継者にわたすリンゴの木を見つめる。生産者が次代を見据え、リスクを押して新品種の栽培に取り組むべきか、判断が迫られている。
   
 


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