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産地移動の功罪
産地移動の功罪
温暖な気候にはぐくまれ、大きく実ったミカン。地元の子どもたちがミカン狩りを楽しむ光景も恒例となった=広野町
第1部 熱くなるふる里

(2)浜通り ミカン適地に //北限外れる福島のユズ//  (08.01.04)
 広野町役場に近い傾斜地に、浜通りらしい日差しを受けてミカン畑が広がる。年間平均気温10.9度の温暖な気候から、町は「東北に春を告げるまち」をキャッチフレーズに掲げ、そのイメージに適したミカンに着目して1985(昭和60)年、苗木を町内全戸に配布した。露地で実をつける温州ミカンの「北限の地」とされ、収穫の秋には庭先などでたわわに実るミカンが見られる。
 町にミカンの苗木を紹介したのは当時、町内で苗木業を営んでいた猪狩新一郎さん(68)。「色づきが良く、皮が軟らかい『宮川早生(わせ)』をもってきた」。町内で栽培されたミカンを静岡県の研究所に持ち込み、品質分析を依頼したところ「酸味と甘みが強く、ジュースに適している」と評価されたという。
 農業経営には至らない同町のミカンだが、地球温暖化による植物生育域の北上は、静かに、しかし着実に産地の移動を押し進め、50年後には浜通りがミカンの大産地になるという夢のような話がある。
 ミカン適地の温度域は15―18度で、現在は静岡など関東以西の太平洋側、愛媛など四国、熊本など九州が適温地域。しかし、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構は適温地域の移動予測の中で、2060年代には関東以西の太平洋側から日本海側に広がり、本県の太平洋側まで北上すると指摘した。
 今の主産地は将来、高温で適地から外れる。今でも四国、九州では着色不良や、果肉と皮が分離してぶかぶかした実になる「浮き皮」の対策が問題化、高温障害と指摘されている。
 気温上昇に伴うかんきつ類の産地移動が、マイナスに働くケースもある。その1つが福島市信夫山のユズ。信夫山のユズ栽培は江戸時代中期から始まったとされ、「北限のユズ」と親しまれた。現在も6軒ほどの農家が栽培する。しかし、気温上昇に伴う産地移動が進めば「北限」のセールスポイントは失われる。実際に、宮城県南部の柴田町雨乞(あまご)地区では300本程度のユズの木があり、北限の「雨乞のユズ」として出荷されている。
 信夫山で栽培する曳地達夫さん(57)は「今は岩手でも栽培されていると聞く。わたしは北限の言葉を使うのをやめた。信夫山の地域性を出していけばいい」という。
 温暖化が進む限り、「北限」に価値を求める産地間競争はあらゆる場面で過熱していく。
   
 


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