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奥会津のブナ林
奥会津のブナ林
只見町布沢地区のブナ林。かつては伐採の危機にさらされたが、現在は貴重な生態系が人々に癒やしを与える
第4部 森との共生

(1)身近な森守る機運高く //40年の住民運動 土台に//  (08.10.05)
 本県は、県土の約7割を森が占める。森は雨水をたたえ、森から流れる水が大地を潤し豊穣(ほうじょう)な実りをもたらす。森の緑が大気中の二酸化炭素(CO)を吸収し、地球温暖化防止の役割も担う。われわれの日常生活を支え、環境と深くかかわる森。近年、伐採や荒廃による自然環境の変化、人類や生物への影響が地球規模で問題となり、県内でも身近な森を守ろうという機運が高まりをみせている。森を守るための実践例から、身近な環境保全の在り方を考える。

 「森は空気を浄化し、森が蓄えた水は川となってやがて海に注ぎ込む。海と大気に国境はなく、集落の森を守ることは地球環境を守ることだ」。只見町布沢の森林伐採に真っ向から反対し、住民運動の先頭に立って森林保護を訴えた同町布沢の刈屋晃吉さん(64)の言葉だ。
 昭和20年代、戦後の復興と経済成長で木材需要が高まり、布沢地区で営林署による国有林伐採が始まった。多い年で約40ヘクタールもの森が切られた。「このままでは人が住めなくなる」。刈屋さんは昭和40年代初め、営林署に対したった1人で伐採反対を訴えたが、木材供給を使命とした当時の営林署が耳を貸すことはなかった。
 1969(昭和44)年、集中豪雨でにより布沢地区が洪水にのみ込まれる災害が発生。このことで地区の住民が伐採反対で団結、刈屋さんらは林野庁に環境浄化や自然災害の防止など森が果たす役割を訴え、近隣地域とともに署名活動を展開した。町や町議会も林野庁に対し伐採中止を求めたが、解決の糸口をつかめないまま長い年月が経過した。
 99年になり、日本野鳥の会南会津支部が布沢地区で絶滅危惧(きぐ)種のオオタカ、クマタカの生息を確認したことで、貴重な生態系をはぐくんでいる森の価値が認められた。林野庁は布沢地区のブナ林伐採中止を決定、2007年には奥会津の森林を将来にわたって保護していこうと只見町、金山町、桧枝岐村と南会津町の旧伊南村、旧舘岩村にまたがる国有林8万3573ヘクタールを「奥会津森林生態系保護地域」に指定した。
 刈屋さんをはじめとした布沢地区住民の約40年にわたる運動が、奥会津全体の森を守る土台となった。
 奥会津の広大な森は自然生態系の安定、COの貯蔵など、環境保護と浄化に大きな役割を果たし、人を含む無数の動植物に恵みをもたらしている。「これ以上、森が切られる心配はなくなった」と穏やかな表情で話す刈屋さん。癒やしを求め都会から布沢の森を訪れる人々に、森の価値や素晴らしさを伝える日々を過ごしている。
   
 


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