【地域を売り出せ(3)】在来種に新たな魅力 山形・置賜農高
◆特産紅大豆で加工食品開発
山形県川西町の置賜農高(柴崎浩校長、生徒288人)は、「地域になくてはならない学校」「地域を担う人材の育成」を教育目標に掲げ、生徒が実習で栽培した農産品の販売や地域行事への参画、課題解決型の学習などに取り組んでいる。
特に注目されているのが、同町特産の紅大豆を使った加工食品開発などに取り組む「豆ガールズ」だ。生産者や消費者、地元の小学生など、町内外の「多世代」と交流、連携しながら、地域活性化への役割を果たしている。
◆豆ガールズ学び発信
豆ガールズのメンバーは、食料環境科食品コースで課題研究テーマ「6次産業」を選択している2、3年生の女子生徒たち。現在は3年生11人、2年生の7人が活動している。授業を担当する江本一男実習教諭(65)は、町内にあるJR羽前小松駅の管理運営などを担うNPO法人「えき・まちネットこまつ」の理事長でもある。
紅大豆は町内の農家で昔から自家栽培されてきた品種で、在来種としての価値が見直され、15年前から本格的に生産が始まった。だが、生産・販売は思うように伸びなかった。「紅大豆のまち」の伝統を受け継いでいこうと、2014年に高校生の活動が始まった。
活動は三つのステージで行われている。一つ目は「学ぶ」。地元の主婦や生産者などから、紅大豆の栄養や調理法、栽培などを学んだ。学びの中で、新しい商品開発も進めた。紅大豆のジャムや大福の開発から始まり、今春には紅大豆と米沢牛を使ったレトルトカレーを地元企業の協力で商品化した。県産米「つや姫」と紅大豆を使ったジェラート「百恋(ひゃっこい)」も発売し、好評を得ている。
二つ目は「育む」。自分たちの学びを地元の子どもたちにも受け継いでもらおうと「豆育」に取り組んでいる。小学校などで出前教室を開くため、紙芝居やかるたを制作。子どもたちに教えることは、自分たちの学びにもつながっている。
三つ目は「伝える」。県内外で、生徒が講師になって豆料理講習会を開いている。おそろいの法被を着て販売活動も行っており、東京・浅草の商業施設など多くの人が集まる場所でも大きな声を出して地元の魅力を発信している。
昨年度には総務省のふるさとづくり大賞総務大臣賞や、やまがた公益大賞グランプリも受賞した。現在は紅大豆を使ったパンの新商品を開発中だ。今年からは、豆ガールズが中心になり、農業に関わる女性の力を結集して産業振興を図る「ノケジョプロジェクト」も始まった。江本教諭のNPOによる高齢者の居場所づくりにも参画し、農業と福祉の連携「農福連携」についても学びを深めている。
今年、豆ガールズのリーダーを務める3年新野咲さんは「活動が町や学校のPRにつながっているのはうれしい。いろんな人の話を聞いたり、人前で大きな声を出したり、普通はできない経験で成長できた」と話す。豆ガールズのOGの多くは、食に関係する職業や学校に進んでいる。ただ、地域外への進学を選んだ生徒の多くが地元に戻ってくる。高校生の時に地域と関わった体験が、そうした流れにつながっている。(山形新聞米沢支社・阿久津誠)
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◆トルネードの中心に 江本一男さん
置賜農高の江本一男実習教諭(65)が理事長を務めるNPO法人「えき・まちネットこまつ」は、駅の管理運営だけでなく、地域活性化活動を行政や他組織と連携しながら展開している。豆ガールズをはじめとした高校生は、連携の中でなくてはならない存在になっている。
駅前には同校のアンテナショップがあり、実習で栽培した野菜などを販売している。県外から人が集まるイベントでは高校生が案内役を務めることもあり、交流人口の拡大にも一役買っている。
地域活性化のキーワードとして「多世代連携」を掲げる江本教諭は「高校生が動くとトルネードの中心となり、周りも引っ張られる」と話す。さらに、高校生にとっても「最近の子は年長者との人間関係の構築が不得意な面もある。活動を通じてコミュニケーション能力を身に付けることもできれば」と願う。
◆新しい発想が楽しみ 淀野貞彦さん
町内の紅大豆生産者18人でつくる川西町紅大豆生産研究会で会長を務める淀野貞彦さん(63)は同校のOBだ。同会は2006年の発足以来、町内の学校給食に紅大豆を提供している。給食を食べた子どもたちが高校生になって豆ガールズとして活躍していることに、淀野さんも喜びと手応えを感じている。
紅大豆の収量は一般のものと比べ2割ほど少ないが、「うまかったから畑の端で栽培が続けられてきた宝物」と愛着も強い。「よく残していただいた」という先人への感謝は、「残し続けないと」という思いにつながっている。
豆ガールズには、栽培の知識のほか、豆の加工について得た新しい知見も伝えている。昔ながらの料理法を残すことも大事だが、時代に合った新しい料理法を「次から次へと展開してくれる」と、高校生への期待は大きい。「自分たちが育った場所の名産品、特産品を誇りに思い、卒業してからも地域の良さを実感してほしい」と後輩の奮闘を温かく見守る。
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