【地域を売り出せ(5)】コンビニと共同でパンケーキを開発 秋田・金足農高
◆SNS話題で再登板
秋田市の金足農業高校(渡辺勉校長、生徒518人)は2012年から、大手コンビニエンスストア・ローソン(東京)と「金農パンケーキ」を毎年共同で開発し、秋田県内のローソンで期間限定で販売している。今年は同校野球部が第100回全国高校野球選手権記念大会で準優勝したことがきっかけで、販売終了後に"復活"を求める声が続出。再び発売され、一時品切れとなる人気ぶりだった。
ローソンは09年、秋田県と地産地消に関する包括連携協定を締結しており、商品開発はこの一環。同社が地元食材を使った商品を高校生に考案してもらおうと、金足農高に打診して実現した。生徒が毎年、パンの味や見た目、包装などについて提案し、同社が秋田市のたけや製パンに製造を依頼している。
毎年5月後半からの1カ月間、県内ローソンの全店舗で販売。今年5月末発売のパンケーキは、刻んで蜜漬けにした県産リンゴを、地元メーカーのしょうゆを隠し味にしたパン生地で挟んだ。姉妹品として販売した「金農デニッシュドーナツ」は、男鹿市産の塩を加えたキャラメルクリームをアクセントにした。
共同開発作業は1月にスタート。現在、食品流通科と生活科学科に在籍する2、3年生計12人が携わった。生徒たちはターゲットを親世代に設定し、農作業の合間に食べられるおやつをイメージ。塩分を補給できる甘じょっぱい味を意識し、塩分濃度が異なるパンを複数試作してもらった。甘味と塩味のバランスにこだわって理想の味に近づけたという。包装はスクールカラーの紫を前面に押し出し、一目で金足農高の商品と分かるようにした。
◆地元食材使い変化球
例年同様、販売は6月末で終了したが、野球部の甲子園での活躍を受け、会員制交流サイト(SNS)上で「またパンケーキが食べたい」などの投稿が相次いだ。このため、ローソンは急きょ再発売を決定。甲子園での決勝から2日後の8月23日には県内全店舗に商品が並んだ。9月25日からは東北各県の一部店舗でも販売している。
食品流通科の佐々木小桃(こもも)さん(18)は「自分たちで考えたことが商品に反映されるのが楽しかった。今年は野球部の活躍で例年以上に反響が大きく、やりがいも感じた」と話す。商品開発や店頭販売の経験を重ね、意見をまとめたり、人前でプレゼンテーションしたりする力も身に付き、就職活動に生かされたという。
指導した川村桃子教諭(49)は「商品開発に携わるのは貴重なことであり、先輩たちが続けてきたことを長くつないでいこうという意識で取り組んでいる。金足農高生ならではのチームワークが、活動にも生きている」と話した。
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◆自由な発想が魅力に 石橋宜子さん
金農パンケーキは、県内で約200店舗を展開するローソン(東京)とたけや製パンが、金足農高の生徒のアイデアや意見を大胆に取り入れて生まれたヒット商品だ。
今年の商品は、仙台市に事務所を置くローソン東北商品部でパンやデザートなどを企画する石橋宜子さん(35)が主に担当。仙台市から秋田市の金足農高に何度も通い、生徒たちと商品の味や包装の内容について話し合った。
しょうゆや塩を使った甘じょっぱいパンというコンセプトは、同社でも珍しいという。石橋さんは開発の過程を振り返り、「市場のトレンドを探りながら、味や見た目にもこだわった。今どきの高校生らしい自由な発想が詰まった魅力的な商品になった」と話す。
ローソンは、今後も同校と一緒にパンケーキの開発を続けていく方針。既に来年の商品の話し合いも始めている。
◆若者のニーズ学べる 工藤一さん
生徒たちが考えたパンケーキを実際に製造するのは、1951年創業で秋田市に本社を置くたけや製パン。同社営業課の工藤一(はじめ)係長(42)は、2014年から金農パンケーキを担当。「生徒は毎年、積極的に意見を出してくれる。可能な限りアイデアを形にしたいという思いで携わっている」と話す。
生徒の意見が全て商品に反映されるわけではない。地元産食材の調達量や製造コスト、消費期限の兼ね合いなど、商品として売り出すために考慮すべき点が多くあるためだ。
同社は通常、実現性を考慮して社員が新商品のアイデアを出し合う。一方、金農パンケーキは、まず高校生の自由な発想を引き出した上で、与えられた設備や食材の中でどう実現できるかを模索しているという。
ナポリタン風に味付けした稲庭うどんを使ったパンや、みそ風味の菓子パンなど、過去には材料調達の都合などで商品化できなかったアイデアもあった。工藤係長は「私たちには思い付かない斬新なアイデアばかり。若者のニーズを知るとともに、新たなパン作りのための刺激にもなっている」と語る。
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