【地域を売り出せ(7)】酒粕ミルクスイーツ考案 宮城・気仙沼向洋高
◆食文化を伝え豊かに
東北有数の港町、宮城県気仙沼市。漁業や水産加工業のイメージが強いこの町で、気仙沼向洋高(佐藤浩校長、生徒359人)は「酒粕(さけかす)ミルクスイーツ」作りに取り組む。地域の食文化の一つ、酒粕を使ったアイデアを考え、市内の菓子業者らの協力を受けて商品化。10月28日には、地元の階上公民館まつりで今年の新商品を含む7種類が販売された。
スイーツ作りを進めるきっかけになったのは、東日本大震災後の2013年に一般社団法人「アイ・クラブ」(当時はNPO)が気仙沼で開いた講演会だ。クラブが提唱する「新しいアイデアを生み出し、未来を考え、学ぶ『イノベーション教育』」に、参加した教諭らが心を動かされた。「生徒の判断力や考える力、創造力が高められる。地元の復興にも役立てられる」
一緒に取り組む生徒を募り、新たな価値創造を進める中で着目したのが酒粕だった。気仙沼には老舗の酒造会社が複数あり、酒粕はなじみが深い。メヌケのあらと白菜の古漬けに酒粕を加え、とろ火で煮込む「あざら」は代表的な郷土料理だ。しかし、人口減や核家族化、食の多様化などで、酒粕が家庭で使われる頻度は減り、若い世代では知らない人もいるという。
◆広い世代へアピール
「地域の食文化を守り、受け継いでいこう」。生徒たちは酒粕をスイーツに取り入れることで、広い世代に伝えられると考えた。14年度には酒粕と市内の牧場で生産される牛乳を組み合わせた「酒粕ミルクジャム」が誕生。後続商品のベースにもなっている。
15年度からは「商品開発」の授業に取り入れ、産業経済科の2年生が全員で取り組む。アイデアづくりから、販売、市場調査、広告などの知識、技術を学ぶ。市内の菓子店に協力してもらい、自分たちのアイデアが商品化できるものかどうかも検証する。
今年のアイデア発表会では、40人が8グループに分かれ、それぞれの案を発表した。共通項は「幅広い年齢層にアピールできて、土産品にもなる」という点。復興に向かう気仙沼の新しい魅力を発信したいという思いにあふれていた。
今年の商品化アイデアに選ばれたのは「酒粕ミルクどら焼き」。あんこと酒粕ミルクが入ったどら焼きで、二つの味が楽しめる。考案した「7班AWARS」の馬上有世(まがみ・あると)さん(16)は「王道のどら焼きにアクセントを加えることで安定的に売れると考えた」とマーケティング的な視点を強調。菊地さゆりさん(16)は「家族全員で食べてもらいたい」と声を弾ませた。
津波で浸水した旧校舎から約8キロ離れた仮設校舎で学んでいた生徒たちは今年8月、地元に建てられた新校舎に戻った。階上公民館まつりでは、同校伝統のサンマ缶詰も酒粕スイーツと一緒に販売。帰ってきた生徒たちの「手土産」は1時間ほどで売り切れた。
指導に当たる安倍優文(まさふみ)教諭(36)は「多くの人と関わることで人間性の成長が図られ、地域貢献の一翼を担うことができる授業だと実感している」と話した。(河北新報メディアセンター・山形泰史)
【応援してます】
◆経験社会で役に立つ 畠山賢一さん
「生徒は私たちには考えつかないようなアイデアを出してくる。こちらも楽しく、刺激になります」と笑顔を見せるのは、気仙沼市本吉町で老舗菓子店「菓心 富月」を経営する畠山賢一さん(67)だ。
授業としてスイーツ作りが取り入れられる前から協力する賛同企業の一つで、生徒のアイデアに熟練の技を加え、自社商品として販売している。 アイデアが実際に商品化できるものかどうかを確かめるため、発表会の前に畠山さんを訪ね、アドバイスをもらうグループもある。
畠山さんも自社の設備で試作できるものは実際に作ってみたりして、生徒たちの思いに応える。そうした経緯もあり、毎年、講師を務めるアイデア発表会では、一つ一つのアイデアに気持ちを込めた講評をする。
「子どもたちが地域資源を掘り起こし、アイデアを膨らませる。地域の大人たちも刺激を受ける。地域への貢献度は高い」と畠山さん。「ものを創り出す喜びと期待で、取り組む子どもたちの表情は皆、生き生きとしている。この経験は今後、社会に出たときに必ず役に立つ」と確信している。
◆毎年優れたアイデア 神田大樹さん
生徒たちが商品開発に取り組む道筋を付けた一般社団法人「アイ・クラブ」のディレクター、神田大樹(ひろき)さん(28)は「アイ・クラブのiは、inovation(イノベーション)のi。技術革新というより『未来をつくる力』という意味。ビジョンとして、誰もが『生み出す力』を持てる世の中にしていきたい」と話す。
年間スケジュールの進め方などを学校側と考え、授業の講師を務める際や節目の発表会で的確なアドバイスを与え、モチベーションを高める。「生徒にとってかなり過密な日程だと思うが、毎年、しっかりしたアイデアを出してくる。まだまだ伸びしろがある」と生徒たちの頑張りを評価し、将来に期待を寄せる。
酒粕を気仙沼の地域資源として当初からスイーツの素材としてきた。来年は授業に取り入れて5年目。「今後は違う地域資源でのスイーツ作りも検討していきたい」と語った。
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