【 本宮・駅前通り(上) 】 時代見て変化続ける 英世を見送った駅
江戸時代に宿場町として繁栄した本宮宿の時代が終わりを告げ、新たな時代に移る大きなきっかけは1887(明治20)年の本宮駅開業だった。人馬から鉄道の時代へと変化する中、駅を中心に商業活動が展開され、現在につながる駅前地区の街並みが形成された。
猪苗代町から会津街道を通り、上京のために野口英世が利用したのは本宮駅だった。駅の開業に伴い駅前から物流なども発展した。旧奥州街道に向けて駅前通りも整備され、店や家が集まった。料理店、旅館、芸妓(げいぎ)置き屋。付近には工場も増えた。
100年以上続く老舗うなぎ専門店「山本家」も駅の開業に伴い駅前通りに移った店の一つだ。昼時には連日、客でにぎわう人気店の4代目店主片柳平八さん(81)は、駅前で生まれ育った。「戦争中は出征兵士が戦地に向かうため列車に乗る時、旗を振り、歌を歌っていた記憶がある」と幼少期の思い出を振り返る。
1950年代に入ると、旧本宮町は地域一体となって観光を全面的に押し出すようになる。交通の主役が車ではなく鉄道だった時代。多くの人が鉄道で本宮を訪れた。花々が咲き競う春のぼたん祭り、南町や北町の太鼓台が競演する秋祭り。夏の風物詩がない―となれば、盆踊りや全国花火大会もすぐに実現させるなど地域に力がみなぎっていた。駅前通りには電飾のアーチがあった時期もあった。
◆人集まる場所
人が集まり、楽しくにぎやかな場所にしたい―。現在も続く夏、秋の祭りから、そんな先人たちの思いが息づいている。片柳さんの脳裏には行事の度、駅前通りに人の切れ間がないほどだった頃の風景がはっきりと刻まれている。
その後、自動車の普及や道路の整備が進み、鉄道に頼っていた輸送もトラック輸送などが増えた。駅の利用状況にも変化が生まれ、駅前もロータリーが広く設置され、駅前を利用する客のために駐車場を設置するなど時代に合わせ、その姿を徐々に変えてきた。
本宮駅は間もなく新築され、長年の悲願だった東西自由通路なども整備予定で駅前の風景も大きく変わる。「もし、英世が新しい本宮駅を見たらびっくりするだろうな」と片柳さん。財布の中の1000円札が少し笑ったような気がした。
≫≫≫ ちょっと寄り道 ≪≪≪
【ボタン押すと歌声流れる】JR本宮駅東口広場には、「イヨマンテの夜」などのヒット曲で知られる本宮市出身の歌手伊藤久男の胸像、歌碑が建立されている。マイクを持ち歌う姿が再現され、ボタンを押すと「あざみの歌」「栄冠は君に輝く」など3曲が流れる。興味津々にボタンを押す観光客も多い。
〔写真〕本宮市を訪れる人を歓迎する伊藤久男の胸像
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