【 南相馬・柳美里さんの挑戦 】 書店開店へ「人集う美しい場所に」
芥川賞作家の柳美里さん(49)は7月、南相馬市原町区の家を引き払い、同市小高区で見つけた、元は水道業者の事務所兼作業場兼自宅だった建物に移り住んだ。小高は東京電力福島第1原発事故による避難指示が解除されてまだ1年で、開いている店も人通りもまばら。自身が校歌の作詞を手掛けた小高産業技術高の生徒らがぶらりと立ち寄れる書店を開くのが目的だ。
表通りに面した部屋を書店に活用する。敷地内に書店以外の人が集まれる空間も作る。だが、元の家主の「できるだけ元の空間を生かしてほしい」という意向も尊重したい。建物裏側の倉庫と蔵のあった空間の活用法に悩み始めた。だが、転居祝いに訪れた担当編集者や文芸評論家らにその空間を見せるうちに、柳さんの考えは固まった。
◆倉庫が劇場へ
「みんなが『かっこいい空間ですね』と言ってくれた。それならば、小劇場にできないかと思い至った」
「劇場」。柳さんにとって特別な意味を持つ言葉だ。16歳で劇団「東京キッドブラザース」に入団、18歳で演劇ユニット「青春五月党」を旗揚げした。思えば青春五月党の初めての公演もこんな倉庫だった。
「劇場が世界で一番美しい場所」。映画『エレファント・マン』の登場人物のせりふだ。柳さんにとって演劇の師匠であり、最愛の人でもあった東由多加さん(1945~2000年)が教えてくれた言葉が、目の前の倉庫と自分を結び付けたように柳さんは感じている。
「劇場」はまた、人が集まる場所の象徴でもある。「小高は福島第1原発から20キロ圏。原発事故で警戒区域という大きなレッテルが貼られた場所」と柳さんは言う。自分の劇場が小高に人を呼び込むきっかけになればとの思いもある。
「この劇場でしか見られないもの、美しいものを提供すれば、この地を訪れる人がいる。その人たちが、訪れたついでに小高を歩くことで、小高の現状を知ってもらえるのではないか」と夢を語る柳さんの様子は一幕のお芝居のようにも見えた。
≫≫≫ ちょっと寄り道 ≪≪≪
【ガラスアクセサリーを製造】ガラスアクセサリーを製造、販売する工房「HARIO(ハリオ)ランプワークファクトリー小高」は2016(平成28)年6月に小高駅近くにオープンした。運営する和田智行さん(40)は「小高区にも女性が働きたいと思えるような魅力的な仕事を創りたい」と話す。営業は月曜から土曜の午前11時~午後3時。
〔写真〕ガラスアクセサリーを製造、販売する工房「HARIO(ハリオ)ランプワークファクトリー小高」
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