【 いわき・平白銀町(下) 】 若者集い『新たな命』 味のある小路
いわき市平白銀町の裏通りからわき道に入ると現れる真っ赤な看板。いわきを盛り上げようと東日本大震災の後誕生した、市内外の飲食店経営者らの店が集まる復興飲食店街「夜明け市場」だ。約40メートルの路地に飛び出す飲食店の看板が雑多に並び、ちょうちんの連なる光景が昭和の薫りを醸し出す。
夜明け市場の場所は、戦後の再開発の中で造られたスナック街「白銀小路」だった横道の一角。いわき明星大客員教授の小宅幸一さん(65)は「白銀町は、歓楽街として完成していた田町と違い、街が未成熟だったからこそ柔軟に対応できた。田町の華やかさをイメージして造られたのが白銀小路」と話す。
都内のスナック街に見立て映画ロケで利用されたこともある味のある白銀小路に30軒ほどのスナックやバーがひしめき合い「肩をぶつけて擦れ違うほどだった」というのは1980年代まで。バブル崩壊の影響で、スナック数軒がひっそりと看板の明かりをともす寂れたシャッター通りとなっていた。
◆震災経て再生
東日本大震災を機に、古里に思いを寄せる若者たちがこの築50年を超す白銀小路に新しい命を吹き込んだ。震災で避難したり店舗を失った飲食店オーナーやU・Iターンオーナーの事業再生・支援を目指す場所として白銀小路を改装し、夜明け市場をオープンさせた。
「古くさくて汚い。本当にここでやれるのか」。白銀小路の廃れように、はじめは不安がよぎったという夜明け市場事務局長の松本丈さん(34)。ただ「いわきを面白くしたい。飲食街を造って復興を支えたい」と考えていた松本さんたちにとって、JRいわき駅に近く、居抜きで初期費用をかけず活用できるこの場所は魅力的に感じた。
2011(平成23)年11月に2店舗でスタート。震災前から残るスナック7店舗と共存しながら再生の道を歩み出した。現在は、新たに出店したイタリア料理店や居酒屋など11店舗が入居している。若いサラリーマンや女性が窓から店内をのぞき込む、十数年前には考えてもいなかった状況が増え、店内の談笑が路地に漏れる。
松本さんたちの挑戦には続きがある。「夜明け市場は10年間と決めて始めた。いま6年が経過しようとしていて、残りは4年。屋台村などまちなかに飲食店を増やす取り組みを考えたい。飲み屋街だけでなく、日中のまちなかに若い人たちを呼び込めるような、昼間の仕掛けもしていきたい」
都市再開発の流れを受けて誕生した街並みは、若い柔軟な発想によって、再び変化を始めている。
≫≫≫ ちょっと寄り道 ≪≪≪
【気軽に楽しめるイタリアン】夜明け市場に店を構える「イタリアンバール ドマーニ」は居酒屋感覚で楽しめるイタリアンの店として仕事帰りのサラリーマンを中心に人気だ。300グラムのボリューム感がある厚切りベーコンのグリル(980円、税別)や炒めたタマネギのうま味が決め手のオニオン・グラタン・スープ(500円、同)が一押し。オーナーの小堀豊さん(56)は「食事とともにワインやビールを飲んで疲れを取ってほしい」と話している。
〔写真〕居酒屋感覚で楽しめる「イタリアンバール ドマーニ」
- 【 二本松・旧裏町 】 人と人...結んで元気に 社交場的な感覚がいい
- 【 いわき・植田の歩行者天国 】 継続が生んだ可能性 街支える力に
- 【 国見・あつかし歴史館 】 思い出の場所...『形変え』生きる学びや
- 【 猪苗代・中ノ沢温泉 】 流れ着いた男...温かい名湯と人情とりこに
- 【 いわきとアート(下) 】 多様さ生み育む『潮目』 本物を求めて
- 【 いわきとアート(上) 】 この店から始まった 病負けず創作活動
- 【 柳津・斎藤清晩年の地 】 求め続けた『古里の美』 消えない思い
- 【 須賀川・赤トリヰ 】 『夢の跡』また集う場に 笑顔あふれるよう
- 【 福島・土湯温泉(下) 】 荒波を越えて悠然と 温泉街のシンボル
- 【 福島・土湯温泉(上) 】 湯気の先に『職人の魂』 季節で味変化