【 浪江・立野地区 】 オリーブに懸けた『夢』 1000年生きる平和樹
南相馬市から県道相馬浪江線を南下し、浪江町に入って県道仲ノ森加倉線に左折、道なりに立野(たつの)地区に入ると突然オリーブ畑が現れる。
―さらにもう七日待って、彼はふたたび鳩を箱舟から放した。すると、鳩は夕方になって帰ってきた。見ると、その口にオリブの若葉をくわえていた。そこでノアは、水が地上からひいたことを知った。(「世界の名著12聖書」中央公論社、原文のまま)
旧約聖書の一節にある「ノアの方舟(はこぶね)」。大洪水が収まったかどうかを調べるため、ノアは何度かハトを舟から放った。すぐに戻ってきたハトを見て、洪水が収まっていないことを知った。次に放した時にはオリーブの小枝をくわえてきたことから、嵐が収まってきたことを感じ、最後に飛ばしたハトが舟にも戻ってこなかったことから、平和が戻ったことを知った。オリーブの木は平和を表す木だ。
東京電力福島第1原発事故による避難指示が帰還困難区域を除き3月末に解除された浪江町。原発事故を受け、農業を担う若者世代の流出、農地の荒廃防止や農業の再興が課題となっている。
立野地区の住民による「立野地区農地復興組合」が185本の木をかつてナシ畑や牧草地だった場所に植えたのは今年10月だった。「油から塩漬け、月けい冠などいろいろなものに使える。オリーブは平和の象徴。そして、1000年生きる樹とされている」。事務局長を務める中野弘寿さん(64)=いわき市に避難=は植えることを選んだ理由を話す。
◆負けずに進む
植えたのは原発事故で汚染された土地だ。除染をした。土もはぎ取った。震災前には農地改良もしたのに。でも、何かやらなくてはいけない。
模索する中で、目に留まったのがオリーブだった。「浪江よりもさらに北側の宮城県石巻市で栽培するというニュースを見た。雪もさほど降らない浪江町立野地区の気候に合うのではないか」
のどかな田園風景の立野地区。集落にはまだほとんど人は戻ってきていない。駆け抜けるのはワゴン車やトラックなどの工事関係車両など。少し寂しい風景だと感じながらハンドルを握っていた。
だが、秋以降、この地にはオリーブの木がある。限られた約50アールの土地とはいえ、地元を何とかしようという意志が感じられる。
早ければ収穫は2018年の秋ごろに始まる。果実は油を搾るだけなく、食用にもでき、塩漬けにもなる。茶は血糖値などを下げる効果があるという。
「夢があるんですよ」。中野さんは続ける。「ここで育ったオリーブのツルで、月けい冠を作る。マラソン大会でも何でも良い。がんばった人に贈りたい」。突然身に降りかかった原発事故。そんなものに負けてられない。彼らにこそ、月けい冠は贈られるべ
きだ。
≫≫≫ ちょっと寄り道 ≪≪≪
【10店舗並びにぎわう「まるしぇ」】浪江町仮設商業共同店舗施設「まち・なみ・まるしぇ」は2016(平成28)年10月に町役場庁舎南側に開業した。コンビニエンスストアやカフェ、クリーニングなど10店舗が並ぶ。浪江町の名物「なみえ焼そば」を提供するアンテナショップもあり、昼時は町民や町外から訪れた人などでにぎわう。
〔写真〕昼時には町民らが訪れる「まち・なみ・まるしぇ」
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