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荒川
水林自然林の中に現存する「霞堤」。荒川と共生した先人の知恵を今に伝える=福島市荒井
ふくしま発 水のあした
第2部 共生の知恵【6】
2010年4月14日付
荒川

地域守る石積みの堤 巧みな工法氾らん防ぐ
 国土交通省の調査で水質日本一に選ばれた福島市の荒川。標高1900メートル級の吾妻の山々から集まる水が、阿武隈川の合流点まで26.6キロの距離を一気に流れ落ちる国内屈指の急流だ。大雨が降ると一気に水があふれ、昔から氾らんの歴史を刻んできた。荒れる川の姿が、名前の由来の一つ。何度も水害に見舞われながらも、先人たちは知恵を絞りながら、荒れる川を治め、共生を続けてきた。
 その名残を見ることができるのが、同市荒井の水林自然林に残る霞(かすみ)堤。可憐なカタクリが咲き誇る水防林の中に石積みの姿を見せる霞堤は、堤防の一部に切り口が設けてある。堤防に押し寄せた水の逃げ口となる。氾らん被害を少なくする治水工法で、江戸時代に造られた。
 大小の石が巧みに組み合わされ崩れることなく現存する姿は、先人の知恵を今に伝える。荒川周辺の環境保全や環境教育などに取り組む「ふるさとの川・荒川づくり協議会」事務局の橋本正男さん(70)は「大きな石を何人で運んだのだろう。昔の人は家を守るために水と上手に付き合った」と思いをはせる。
 荒川は、市街地の西部に肥沃な扇状地を形成した。流域には水田や果樹畑が広がる。荒川の川筋には現在、9つの堰(せき)があり、市西部の約1780ヘクタールの農地を潤しているほか、住民の生活用水としても利用されている。
 水林自然林の上流にある大正から昭和にかけて造られた「地蔵原堰堤」の左岸にある佐原堰。同市佐原の会社社長尾形一郎さん(62)は堰から引いた水を利用し、先祖から受け継いだ水田で「ひとめぼれ」を生産している。「荒川の水はきれいなのでおいしい米ができる。首都圏でも人気がある」と尾形さんは誇る。
 荒川には、源流部から土石流を防ぐための砂防ダムなども数多い。昔から、大雨で河川が決壊するたびに治水や砂防の改修工事が行われてきた。大正、昭和期は地元の農家の人たちが従事した。尾形さんは「今でも河川工事に携わったというお年寄りがいる。工事の日当が生計を支えたと思う」と話す。日当は農閑期の農家にとって貴重な収入源だったという。ひとたび大雨が降ると、水防活動にも従事した。荒川を自らの手で治め、守ろうという地域住民の思いがある。
 


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