「たぶん君のもある」 名簿1件20円で販売

 
「たぶん君のもある」 名簿1件20円で販売

坂本の事務所で示されたリスト。名前や生年月日、携帯電話番号などが網羅されている

 賃貸住宅経営会社などが事務所を構える都内のビルの地下。その一室でワイシャツ姿の男性数人がパソコンを操作しながら、談笑している。名簿などに掲載された個人情報を販売する会社の事務所だ。今月11日、その事務所を記者が訪ねた。インターネット上には、名簿販売業者として、会社名も記載しているが、事務所には社名を示す看板はない。

 ■通販のリスト

 「もちろんデータの重複はあるけど、1億人分ぐらいの名簿がある」。自ら「社長」と名乗った初老の坂本直一(仮名)は、こう説明した。名簿は1件20円で販売。事務所には国立大の卒業者名簿などが無造作に置かれているが、販売するのは一般的な名簿ばかりではない。会社のホームページには、国家資格取得者など比較的入手が容易とみられるリストのほか、通信販売利用者ら正規ルートでの調達が難しいとみられるリストもある。

 坂本が「こんなのもあるよ」と示したのが、「胸が小さいことに悩む女性」のリスト。名前や住所に加え、携帯電話の番号や生年月日も記載されている。驚いてリストを見ていると、坂本が笑いながら言った。「事務所には、たぶん君の(情報)もあるよ」

 ■「関係ない」

 これまでの県警の捜査や、警視庁、他県警の押収した書類などから、なりすまし詐欺に使われるのは、高校の同窓会のほか、未公開株購入者、先物取引経験者、訪問リフォームの契約者の名簿などがある。

 坂本の会社には時折、捜査員が訪れるという。詐欺などの犯罪に使用された名簿の入手先を調べる裏付け捜査のためだ。

 坂本は「警察が来て『あなたのところで購入された名簿が詐欺に使われた』と言われても、『そんなのこちらに関係ないでしょ』としか思わない」と話す。

 「犯罪に加担している可能性がある」との思いを見透かしたように坂本は続けた。「詐欺に使われると思って名簿売ってるわけじゃない。誰かが、ある金物屋で購入した包丁を使って人を刺したとする。悪いのは金物屋さんかな。違うでしょ」

 県警捜査2課によると、これまでの捜査から、なりすまし詐欺には坂本のような業者から名簿を調達する「名簿屋」のほか、不正取得の銀行口座や携帯電話を用意する「道具屋」、犯行グループに代わって犯行拠点を用意する「代行屋」などが存在しているとみられる。