息子の実名信じ込む 娘の一言でうそと気付く

 
息子の実名信じ込む 娘の一言でうそと気付く

「もしも娘の一言がなかったら、と思うとぞっとする」と振り返る佐久間。なりすまし詐欺の電話を一度は信じ込んだ

 「もしも娘の一言がなかったら、と思うとぞっとする」。3月に息子を名乗る男からの電話を受けた須賀川市の主婦佐久間昭子(64)=仮名=は振り返る。

 ■高校の名簿悪用か  

 「まさか自分のところに、なりすまし詐欺の電話が来るとは思っていなかった」。佐久間にかかってきた電話の男は、長男の名前を名乗った。信じ込んだ佐久間が電話の内容を離れて暮らす長女に話したところ、「それ本当にお兄ちゃん?」と確認を促されたことで、うその電話と気付くことができた。しかし、長男の名前を使う手口がたまらなく不快だった。

 捜査関係者によると、佐久間に電話があった日には、長男の高校時代の同級生宅への不審電話が複数確認され、長男が卒業した同市の高校の名簿が使用された可能性がある。

 佐久間は孫の「犯人を懲らしめてやろうよ」の一言で、「次に電話が来たら録音して警察に通報しよう」と決意した。4月に入り、再びかかってきた電話の内容を警察に連絡し、信じたふりをして犯人と接触を図る県警の「だまされたふり作戦」に協力し、JR須賀川駅で現金を受け取りに来た男と会った。作戦は成功し、男2人が詐欺未遂の疑いで逮捕された。

 5月になって佐久間の元に、逮捕された埼玉県の男(22)から封書が届いた。手紙には「心の底から申し訳ない気持ちでいっぱい」とつづられていたが、佐久間は男への不信感を消すことができない。

 理由は二つある。一つは警察から「逮捕の男は『金は取ってないのだからいいだろう』と言っている」と聞いていたから。もう一つは長男の名前を名乗ってきたことだ。手紙の男は執行猶予付きの有罪判決となったが、「男らが、また誰かの息子を名乗って詐欺に手を染めるのでは」と思うことがある。「(被害者が)実の息子と信じて裏切られるのはたまらないだろう」

 ■子どもと頻繁に連絡 

 県警生活安全企画課の坂詰佳宣指導官(54)は「自分は詐欺にはだまされないと多くの高齢者は思っている。しかし、実際に電話で子どもの名前を出されると、すんなり信じてしまうケースが見られる」と指摘する。佐久間のように「子どもと頻繁に連絡を取り合うことで被害防止につながることもある」として、「親の側からだけでなく、子どもからも親に目配りすることが大事」と強調する。

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 過去最悪のペースで被害が拡大している県内のなりすまし詐欺。首都圏から近い本県を狙った不審電話が頻発し、現金をだまし取る手口も巧妙化する中、被害を防ぐ手だてはあるのか。関係機関の取り組みや、識者の声から防止策を考える。