人の判断力限界ある 被害心理を分析し対策

 
人の判断力限界ある 被害心理を分析し対策

「人にはだまされていると思いたくない気持ちがある」と指摘する辰野教授。多くの被害者が初体験で相手の話を信じてしまう

 県内のなりすまし詐欺の被害額は、今年上半期で2億2587万円(前年同期比3402万円増)と、1年間で過去最悪の4億7096万円を記録した前年を上回るペースで推移している。息子や孫を装う「オレオレ詐欺」、金融機関を通じて現金をだまし取る「振り込め詐欺」など犯行の手口や特徴が広く知られているにもかかわらず、なぜ被害は減らないのか。だまされる人に特徴はあるのか。

 詐欺の被害者心理に詳しい国士舘大の辰野文理(ぶんり)教授(54)=被害者学=は自身の調査から「だまされた人の特徴は見いだせない」とする一方、「人の判断力には限界がある」とも指摘する。

 ■初体験のシナリオ

  辰野教授によると、犯行グループが用意しているシナリオは「今すぐ対応しなければ、息子が大変なことになる」と緊急性を強調したり、「警察官」などを名乗り、権威や肩書を使用することで信用を得ようとしたりする。緊急事態に陥った息子や、警察官が自宅に電話をかけてくるケースは、一般的に少ない。多くの被害者にとって初体験のため、相手の話を信じたまま対応してしまう。

 人には「自分がだまされている」と思いたくない気持ちがあるため、たとえ話の内容に不合理な部分があっても「だまそうとしている人が、こんなに丁寧な言葉遣いをするわけがない」などと、うそだと疑うことを否定するわずかな情報を当てにしてしまうという。「犯人の話を信じてしまうという反応は、被害に遭う人の特性というより、人の一般的な反応」と説明する。

 多くの人は「自分がだまされるわけがない」と思っている。辰野教授は「被害に遭ったことがない人は、詐欺被害の報道などを見て、被害者と自分の違いを見つけ出し、『自分は大丈夫』と安心したい気持ちを抱きがち」と強調する。

 ■合言葉や留守電を 

 誰もが被害者となり得るなりすまし詐欺に防止の手だてはあるのか。県警幹部は「携帯電話と同様に着信番号の表示機能のある電話を利用したり、普段から家族と合言葉を決めておくなど被害に遭わない準備をしておくことで余裕が生まれ、被害の防止につながる」と提案する。

 留守番電話で相手の用件を聞いてから、かけ直すのも「自分を落ち着かせることができる良い方法」と紹介し、不審電話を受けても相手のペースに巻き込まれない心のゆとりを持つことの重要性を訴える。