【12月13日付編集日記】豊かな時間

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 「弘法は筆を選ばず」。これは書の達人として知られる空海にまつわる言葉だが、空海自身は、筆を選べといっているという

 ▼空海は「能書は必ず好筆を用う」「臨池(りんち)は字を逐(お)いて筆を変ず」と書き残している。「字のうまい人は必ず良い筆を用いる」「字を書くときは書体に従って筆を変える」との意味。つまり「筆を選べ」(岸田知子「空海の文字とことば」)

 ▼「弘法も筆の誤り」とも言うが、実際に空海が書き誤った文字や人名もあるそうだ。その際、空海は墨で消したり、書き直しているという。字がうまいことと書き損じることは別だとはいえ空海だって間違えていた。そう言われれば達人も何となく身近に感じられる

 ▼手書きの字が試されるような季節。90歳になる女性が手の震えを抑えながら時間をかけてしたためたという年賀状の話が本紙の読者の投稿欄「窓」に紹介されていた。毛筆で一枚一枚丁寧に書くことを楽しみにしている、との投書もあった

 ▼心のこもった字に思いを託した人と、それを受け取った人。一枚のはがきを通じて共に豊かな時間を共有する。それも年賀状といえる。書き損じはいつも多いが、そんなはがきを書けただろうか、と自分に問うてみる。