【2月27日付編集日記】大悲山伝説

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 南相馬市小高区にある国指定史跡の石仏群「大悲山(だいひさん)」にはこんな伝説がある。昔、琵琶法師が、大悲山の観音様に眼病が治るよう祈り、堂にこもって琵琶を弾いていると、大蛇の化身が現れた

 ▼大蛇はこう告げる。「これから雨であたりを泥海にする。琵琶を聞かせてくれたお礼に、おまえは逃げていいが、誰にも言うな」。しかし、このままでは村が滅びると、法師は村人に知らせ、自身は大蛇に殺されてしまう

 ▼この伝説の舞台で、石仏群の一つ「観音堂石仏」を雨風から守る覆屋(おおいや)が再建された。震災で倒壊したが、事故のあった東京電力福島第1原発から20キロ足らずの場所にあることもあり、再建まで約5年かかった

 ▼大悲山に限らず、震災で被害を受けた文化財は多い。とくに踊りなどの無形文化財は、担い手たちが避難でちりぢりになっている場合、関係者が抱く消滅への危機感は強く、共同体の危機とも重なる。過ぎ去る時間が、大蛇の降らす大雨のようだ

 ▼だが伝説はこう続く。村の危機を知った村人や役人は、大蛇が鉄に弱いという昔からの言い伝えをもとに計画を練り、力を合わせて大蛇を退治する。伝説が示唆する知恵や協力の大切さは、多くの時を経てなお変わらない。