【4月21日付編集日記】心平の料理

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 「夕焼」「無題」「美人の胴」「悪魔のぶつぎり」―。いわき市出身の詩人草野心平が一つ一つ思案しながら紙に書き付けたという言葉だ

 ▼詩人は、このどこか不思議な言葉で、どんな詩を書いたのかと思えば、実は居酒屋のメニュー。「夕焼」はボルシチ、「無題」は豚の腎臓のいため物、「美人の胴」はいたわさ、そして「悪魔―」は酢ダコのことである

 ▼心平は戦前から戦後、詩作だけでは食べられず、いくつか店を開いた。このメニューも1952(昭和27)年から約5年間、東京で開いた居酒屋「火の車」のもの。生活のためとはいえ、いたずらっ子のような詩人の笑顔が目に浮かぶ

 ▼心平と料理をテーマにした企画展がいわき市の草野心平記念文学館で開かれている。同館によると、心平の料理は名前の魅力だけでなく、身近なものや、牛の舌など当時は捨てられていた食材を使い工夫した点も特徴。心平にとって食は詩と同じく創造だった

 ▼心平の生活がまさに「火の車」だった頃は世間も総じて貧しかった。それが、今や物は豊かでグルメばやり。だが、現代人は詩人のように食事を楽しんでいるのか―などと「悪魔のぶつぎり」でも作り思案してみるのもいいかなと思う。