【6月12日付編集日記】梅雨入り

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 「ごんぎつね」や「手袋を買いに」などの名作で親しまれている童話作家の新美南吉に「でんでんむしのかなしみ」という作品がある。でんでん虫はある時、背中の殻の中に悲しみが詰まっていることに気付く

 ▼友人に悩みを相談すると「あなたばかりではありません。私の背中にも悲しみはいっぱいです」との答えが返ってくる。他の友人に聞いても、皆同じ答えだった。最初のでんでん虫は、悲しみを抱えているのは自分だけではないと気付き、嘆くのをやめる(「校定新美南吉全集」大日本図書)

 ▼南吉には、この他にも、カタツムリを題材として母子の絆の大切さなどを表現した短編がある。角のように見える触角を揺らしながらゆっくりと動くカタツムリの様子に、思慮深さや優しさなどを感じ取ったのだろうか

 ▼本県をはじめ東北地方が梅雨入りした。乾燥が苦手で、天敵の鳥などから身を隠すために普段は夜行性のカタツムリたちも、この時期ばかりは昼間にも姿を現し、しとしとと降る雨に風情を添える

 ▼初夏の爽やかな陽気が、照りつける夏本番の日差しに移り変わるまでの小休止。自然界に恵みの雨が宿るひととき、穏やかな気持ちで内なる声と向き合うのも悪くない。