【6月16日付編集日記】ホタル

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 暗闇を飛び交う、いくつもの光の筋。その幽玄さは古来から人々の心を捉えてきた。平安時代に書かれた「伊勢物語」や「宇津保物語」などには、王朝人がホタルを放ち、闇にまぎれた女性の顔を照らして見るシーンが描かれている

 ▼同時代の歌人、源重之は秘めた恋心をホタルに重ねて「音もせで思ひに燃ゆる蛍こそ鳴く虫よりもあはれなりけれ」と詠んだ。江戸時代には「恋に焦がれて鳴く蝉(せみ)よりも鳴かぬ蛍が身を焦がす」と都々逸に歌われた。ホタルは、男女のロマンスを盛り上げる役目も果たしてきたようだ

 ▼県内でホタルが見られる時期になった。来週は気温も上昇して、より多く姿を現しそうだ。ホタル観賞の名所として知られる桑折町の産ケ沢川や、会津若松市の北会津地区ではイベントも開かれる

 ▼ホタルが生息するには冷たい清流と、エサとなる巻き貝のカワニナが欠かせないが、都市部ではそうした環境が失われつつある。一方、県内では住民が保存会などをつくってホタルの生息地を守っている地域もある

 ▼ホタルが川べりに光の軌跡を残して飛ぶ姿は日本の原風景だ。ロマンチックな景色を未来に残すために、人間はどうすべきか。物を言わぬホタルが問うている