【10月6日付社説】電子書籍配信進まず/読めてこその本ではないか

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 国の補助金で電子化された本である以上、まずは読みたい人が、読める状態にする必要がある。

 東日本大震災の復興予算を使って電子化された約6万5千冊のうち、少なくとも約1700冊がインターネットなどで配信されず、利用できない状況であることが、会計検査院の調べで分かった。

 この事業は、経済産業省の「コンテンツ緊急電子化事業」で、2011年度の補正予算で事業化された。被災地で電子化作業を行うことによる雇用創出や、震災で書店などが失われた地域住民への読書機会の提供、東北からの情報発信などが目的として掲げられた。

 業務を受託した一般社団法人「日本出版インフラセンター」が出版社の申請を受け、東北の印刷、IT関連業者などに電子書籍の制作を委託する仕組みで、電子化する費用の3分の2から2分の1を補助した。補助金は約10億円に上る。12年度に出版社約340社が約6万5千冊を電子化した。

 しかし、検査院が同センターに調査を要請したところ、調査に答えた約40社の電子書籍約1万8500冊のうち約2400冊が未配信だったことが分かった。一部は配信可能だったが、1687冊は著作権の許諾や技術的な修正が終わっていないことなどが配信できない理由として挙げられた。

 この事業では確かに、電子化した後の配信までは求めていない。しかし、「知へのアクセス向上」をうたいながら、事業が終わってから3年たっても多くが配信されていない状況は極めて残念であり、検査院が対策を講じるよう経産省に求めたのは当然だ。

 しかも、残る約300社(約4万6400冊)はセンターの調査に回答しておらず、未配信の本はさらに増える可能性が高い。経産省は詳しい状況把握に努め、配信が進むよう働き掛けてほしい。

 この事業では、本を実際に電子化する仕事を請け負った企業88社のうち東北地方の企業の占める割合が7割以上を占めた。黎明(れいめい)期にある電子書籍の関連事業に東北の企業が関わるきっかけをつくったという面では一定の効果があったとみることもできる。

 一方で、昨年9月には、この事業で電子化された本の一部に、性や暴力表現などの観点から問題があったとして、同センターが補助金約30万円を国に返還するという事案も起きている。

 震災と原発事故からの復興を成し遂げるためには予算の確保が欠かせない。しかし、血税を使う以上、事業の実効性が厳しく問われていることを忘れてはならない。