【5月10日付社説】放射線と健康 /研究成果を発信し続けよう

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 東京電力福島第1原発事故で大きな痛手を負った相馬地域から放射線と健康への影響に関する研究成果を発信できた意義は大きい。

 相馬市で7、8の両日に開かれた「こどもと震災復興国際シンポジウム」のことだ。

 原発事故で全村避難を強いられた飯舘村、一部が避難区域に指定された南相馬市をはじめ沿岸北部の相馬、新地の4市町村で構成する相馬地方市町村会が主催し、世界保健機関(WHO)が共催、日本医師会が特別後援した。

 相馬地域の医師や国内外の研究者らによる研究報告、パネル討論は、相馬地域の住民をはじめ、県民の健康を考える上での貴重な示唆を与えてくれたといえる。

 南相馬市立病院や相馬中央病院で医療活動を続け、住民の被ばく線量を調査している坪倉正治医師は「子どもの内部被ばく量は一貫して低い」と報告した。

 坪倉医師の報告は臨床でのデータの積み重ねからだ。病気を引き起こすような被ばく状況にはないということを再認識したい。

 県が実施している県民健康調査の甲状腺検査で、甲状腺がんが確認されていることについては、海外の専門家から「被ばくの影響かどうか識別するのが難しい」との見解が示された。

 被ばく線量の低さから、原発事故の影響は考えにくいとする県民健康調査の評価と同様の見解だ。

 放射線の健康への影響については科学的なデータを客観的に分析することが重要になる。

 過度に心配することはないことを再確認できた調査研究の成果報告を、今後の住民帰還や若者を呼び込むために生かしたい。

 相馬中央病院などの研究チームは震災後5年間の南相馬、相馬両市民のがんによる死亡率を調べた結果から、10万人当たりのがん死亡率は震災前よりも低下していると報告した。

 一方で震災発生後1カ月間に75歳以上の高齢者の死亡率が1・5倍に増えたとの調査結果も示した。肺炎の死者数が増えたことが要因とし、避難所生活などで感染症予防の口腔(こうくう)ケアが十分にできなかった可能性が高いと分析した。

 同病院の越智小枝医師は震災後の子どもと高齢者の運動能力の低下を報告し、「がんや放射能ばかり議論が終始し、防ぐことができる健康被害が見落とされている」と語った。

 震災と原発事故後の県民の健康状況を、的確に捉えた指摘といえる。暮らしの中から健康の改善につなげる取り組みの広がりが求められる。