【5月14日付社説】「松川事件」の資料/貴重な記録と記憶を後世に

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 司法史に残る貴重な記録と記憶を後世に、そして世界に語り継いでいかなければならない。

 戦後最大の冤罪(えんざい)事件として知られる「松川事件」の関係資料をユネスコの「世界の記憶(世界記憶遺産)」にしようと、福島大は日本ユネスコ国内委員会に登録を申請した。委員会が夏に行う審査で国内候補になれば、ユネスコ本部に推薦される。本部は来年春ごろ、選定結果を発表する。

 松川事件は1949(昭和24)年、福島市の東北線金谷川―松川駅間でレールが取り外され、通過しようとした列車が脱線、転覆して乗務員3人が死亡した列車往来妨害事件。旧国鉄と東芝両労組の組合員ら計20人が逮捕され、一審では5人に死刑を言い渡されるなど全員が有罪判決を受けたが、63年の最高裁判決で全員の無罪が確定した。

 事件の発生から間もなく70年を迎える。事件のあらましや意義を次世代にどう伝えていくかが大きな課題となっているが、登録が実現すれば国内外から再び注目を集めることになる。事件の風化を防ぐ大きな力にしたい。

 「世界の記憶」は、歴史的に価値が高い文書などの保存や活用を目的にユネスコが実施している。海外ではフランスの「人権宣言」や、ベートーベンの「第九」直筆楽譜などが登録されている。国内では、藤原道長の日記「御堂関白記」や、「『慶長遣欧使節』関係資料」などが選ばれている。

 松川事件では、被告らを支援する市民らが公正な裁判を求める運動を全国で展開した。戦後の社会運動や刑事裁判の転換期となった事件だけに、世界に広く伝える価値があるはずだ。

 福島大が登録申請した資料は、脱線・転覆した蒸気機関車の写真や、無罪判決確定までの刑事裁判記録、無罪判決の決め手となった「諏訪メモ」など約400点に及ぶ。これらは、福島大が学内に設置している「松川資料室」に収蔵されている資料だ。

 88年に開設された同資料室には松川事件に関する10万点以上の資料が収められており、一般にも広く公開している。年間数百人が見学に訪れているが、同資料室運営委員の伊部正之さんは「来訪者は年輩の方が中心で、若い人たちの関心が薄れてきているように感じる」と話す。

 地域の歴史を次世代に引き継いでいくためには、松川事件の意義を改めて発信し、重要な資料の保存と活用をさらに進めていく必要がある。「世界の記憶」への登録申請をその契機としたい。