【10月8日付社説】斎藤清作品展/新たな魅力を発見する秋に

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 その青年は、芸術の世界で生きていこうと決意していた。しかし作品を出品した展覧会で落選し、大きなショックを受ける。

 そんな時、美術雑誌でノルウェーを代表する画家エドバルト・ムンクの版画と出会う。青年は独特の構図や光の濃淡にひかれ、ムンクの作品の模写を始めた。自身の作品にも西洋の技法を取り入れて独自の作風を確立し、国内外での高い評価へとつながっていく。

 会津坂下町出身の版画家、斎藤清が30代の頃のエピソードだ。

 ことしは斎藤の生誕110年で、没後20年でもある。その節目に合わせた企画展が、柳津町のやないづ町立斎藤清美術館と、福島市の県立美術館で始まった。

 初期のものから代表作まで、多くの作品に触れる絶好の機会だ。斎藤の作品世界を堪能し、新たな魅力を発見したい。

 斎藤清美術館で開かれている「ムンク×斎藤清展」では、斎藤が好んで模写した「病める子」など9点のムンクの版画と、ムンクの影響を受けて斎藤が制作した作品約60点が並ぶ。東西二人の巨匠の競演は見応え十分だ。

 斎藤の版画といえば、里山などの情景を描いた郷愁あふれる作風を思い起こす人が多いだろう。しかし今回の企画展では、西洋近代技法に学んだ前衛的な作品も多く展示されている。斎藤作品の違った一面を知ることで、鑑賞の楽しみがより増してくるはずだ。

 県立美術館の企画展「斎藤清からのメッセージ」も注目度は高い。1970年以降に制作された「会津の冬」シリーズの全115点が初めて一堂に会した。

 「会津の冬」は、斎藤の代名詞だ。白と黒のモノトーンを中心に織りなす作品は、シンプルでありながら奥深い斎藤の世界観を象徴している。それらの作品を心ゆくまで堪能できるのは、ファンにとって大きな喜びだろう。

 県立美術館の紺野朋子学芸員によると、最近は斎藤清の作品になじみのない若者が増えているという。本県が生んだ偉大な芸術家をもっと若い世代にも知ってもらうことが課題となってきている。

 両美術館の企画展では、西洋のモダンアートを連想させるような斬新な作品も多く展示されている。往年のファンだけではなく、これまで斎藤の作品を見たことのなかった若者にとっても鑑賞する価値は大きいはずだ。

 斎藤がムンクの作品に胸を打たれたように、一枚の芸術作品との出会いは、時に感性を大きく刺激する。この秋、そんな出会いを探してみてはいかがだろうか。