【みんゆう県民大賞 誉れ高く〈3〉】 小高住民に憩いの場

 
地域の憩いの場となっているカフェを備えた書店「フルハウス」で地域住民と懇談する柳さん(中央)

■ふるさと創生賞 柳美里さん 

 第31回みんゆう県民大賞に選ばれた芸術文化賞の音楽グループGReeeeN(グリーン)、スポーツ賞のバドミントン混合ダブルスの東野有紗さん(24)と渡辺勇大さん(23)、ふるさと創生賞の作家柳美里さん(52)、福島医大教授坪倉正治さん(39)。復興へ歩む県民に勇気を与えたそれぞれの活動を4回にわたって紹介する。

書店、劇場 地域つなぐ

 芥川賞作家の柳さんは2015(平成27)年に被災地支援で通っていた南相馬市に移住、執筆活動や開設したカフェを備えた書店の運営などを通じて被災地再生の一翼を担っている。

 柳さんが同市に通い始めたのは東日本大震災後。臨時災害ラジオ局「南相馬ひばりエフエム」が放送するトーク番組への出演がきっかけだった。柳さんにとって同市は、かつて母方の祖父家族が暮らしたゆかりの地でもあった。

 番組への出演は12年から始まり6年間に及んだ。柳さんは「誰一人として嫌な人はいなかった。番組を続けていくうちに皆さんと家族のような関係になっていた」と振り返る。

 ラジオ番組で計600人ほどの市民と対話した交流が縁となり、神奈川県鎌倉市から南相馬市原町区への移住を決断。17年には同市小高区に転居した。

 18年4月には自宅に書店「フルハウス」をオープン。「学校帰り、電車を待つ高校生たちが時間をつぶせる場所がない」との思いからだった。「大入り満員」を意味する店名を選び、「小高の地に世界で一番美しい場所をつくりたい」との願いを込めた。その後にカフェを増設、住民に憩いの場を提供し続けている。

 柳さんの活動範囲は広がり続け、17年4月に開校した小高産業技術高の校歌の作詞を担当したほか、自宅敷地内の倉庫に小劇場「LaMaMa ODAKA(ラママ・オダカ)」を開設。今後は来年春を目標に、映画の上映会や演劇イベントを常時開催できるよう改装する予定だ。

 執筆活動では昨年11月、米国で最も権威のある文学賞の一つである全米図書賞の翻訳文学部門に、小説「JR上野駅公園口」が選ばれた。「私の物語というより南相馬の人たちの物語。地元の方々から、おらほ(私の町)の物語、おらほの小説家と喜んでもらえたことがうれしい」と喜びを語る。

 「表現者である前に生活者でありたい」と話すように、柳さんは移住後で一番大事にしているのは住民目線だ。住んでいる小高区は16年7月にほぼ全域で避難指示が解除されたが、住んでいる人は震災前の約3割にとどまる。柳さんは「地域にあったコミュニティーが住民の避難で失われつつある」と話す。

 柳さんは執筆や演劇活動を通じて地域コミュニティー再生に取り組む考えで、自身の戯曲「町の形見」を基にした米国シカゴでの演劇制作や、富岡町の「JR常磐線夜ノ森駅」をテーマにした作品を執筆する予定だ。

 「普通に生活していると聞き逃したり、目に留めないようなことも作品にしたい。良い小説家とは発信者というより受信者だと思う。住民と歩みを共にしたい」。柳さんは思いを語る。

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 柳美里(ゆうみり) 1968(昭和43)年、茨城県土浦市生まれ。俳優、演出助手を経て劇団「青春五月党」を結成。93年「魚の祭」で岸田國士戯曲賞、97年「家族シネマ」で芥川賞を受賞。著書に「フルハウス」「南相馬メドレー」「ねこのおうち」など。