【みんゆう県民大賞 誉れ高く〈4〉】 放射線分かりやすく

 
小学生向けに放射線の授業を行う坪倉さん=2013年11月、相馬市

 ■ふるさと創生賞 坪倉正治さん

 第31回みんゆう県民大賞に選ばれた芸術文化賞の音楽グループGReeeeN(グリーン)、スポーツ賞のバドミントン混合ダブルスの東野有紗さん(24)と渡辺勇大さん(23)、ふるさと創生賞の作家柳美里さん(52)、福島医大教授坪倉正治さん(39)。復興へ歩む県民に勇気を与えたそれぞれの活動を4回にわたって紹介する。

 被災地の医療支える

 「1週間くらい行ってくる」。2011(平成23)年4月、東大医科学研究所に所属していた坪倉正治さん(39)は指導教官からの連絡で本県に支援に入ることになった時、後に妻になる女性にそう告げたという。「先日妻から『1週間が10年になったわよ』と言われた。当時はこれほど長く福島にいることになるとは考えておらず、不思議な縁を感じる」と振り返り、県民への感謝を口にした。

 「必要としてくれる人がいて、『ありがとう』と言ってくれる人がいた。10年続けられたのは、県民の方々に支えられたおかげです」

 血液内科を専門とする医師。本県に来てまず取り組んだのは避難所での手伝いだった。次第に住民から放射線のことについて聞かれることが増え、各地で説明会を行うようになった。南相馬市立総合病院に内部被ばく検査のためのホールボディーカウンターが導入されると、検査結果を説明しながら住民の放射線不安に向き合う活動を始めた。学校での放射線教育も担うようになった。

 活動を続けるうち、原発事故で避難を余儀なくされたことなどによる生活環境の変化が健康にもたらした影響の大きさに気付いた。「被災地で糖尿病などの生活習慣病が増加していることや、がん検診の受診率が低下していることにも注意が必要だと伝えなければならないと考えるようになった。放射線だけでなく、さまざまなリスクにバランス良く対応する必要があり、今の新型コロナウイルスの状況下でもこうした対応が求められていると思う」

 県民への情報発信などを目的に、仲間の研究者とも議論を重ねながら、研究成果を論文にまとめ公表していった。その数150本以上となった。

 15年1月からは本紙で「坪倉先生の放射線教室」の週1回の連載を始め、放射線の健康影響など科学の難しい問題について県民に分かりやすく解説している。7年目を迎え、連載回数は320回を超えた。

 昨年からは福島医大放射線健康管理学講座の教授として後進の指導にも当たる。同年、被災地で献身的な医療活動を続けているとして建築家の安藤忠雄さんが理事長を務める安藤忠雄文化財団賞を受賞した。

 震災と原発事故の発生から11年目の今、原発事故直後の病院の避難についての調査を進めている。病院避難を巡っては、避難所に移る過程で多くの患者が亡くなった。

 研究を進める動機となっているのは、亡くなった患者らに対する弔いの気持ちだという。「当時の状況をしっかり調べて今後の災害対策に役立てることが、亡くなった方々に対して医師である自分ができる唯一のことかなと考えている」
 =おわり

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 坪倉正治(つぼくらまさはる) 大阪市出身。灘高卒。東大大学院医学系研究科修了。相馬中央病院、南相馬市立総合病院、ひらた中央病院などに勤務し、昨年から福島医大放射線健康管理学講座教授を務めている。