【誉れ高く】芸術文化賞・安部義孝さん 水族館「育てる」魅力

 
初代館長としてアクアマリンふくしまの発展に尽くしてきた安部さん=2018年10月

 第32回みんゆう県民大賞に選ばれた芸術文化賞の前ふくしま海洋科学館理事長・アクアマリンふくしま館長の安部義孝さん(81)、スポーツ賞の関脇若隆景関(27)=荒汐部屋、福島市出身、ふるさと創生賞の前県ハイテクプラザ会津若松技術支援センター副所長の鈴木賢二さん(60)。各分野で活躍し、県民に勇気を与えたそれぞれの活動を3回にわたって紹介する。

 水色に輝く宝石のような建物の中で、魚や動物が、自然界で暮らすような動きを見せる。「ここで山・川・海について知ってもらい、地球環境を考えられる人がいずれ出てきてほしいとの思いで務めてきた」。いわき市小名浜の環境水族館「アクアマリンふくしま」は、前館長の安部義孝さんがゼロから育ててきた。

 アクアマリンに関わり始めたのは1990年代前半。水族館整備の計画に携わる県の担当者が葛西臨海水族園(東京都)の園長だった安部さんに相談を寄せたことがきっかけだ。

 上野動物園水族館(同)と葛西という日本を代表する施設の開館に立ち会い、水族館を"育てる"魅力を知る安部さんにとっても、水族館の計画段階から携わることは「わくわくする」経験だった。

 構想段階では「イルカのショーをやりたい」との意見もあったが、敷地の制約で専用プールを造る余地がない。「どうやって集客するのか」という声に、安部さんは「サンマだろう」と話したという。

 当時、小名浜港はサンマの水揚げ量が多く、小名浜を象徴する魚だった。本県沖は黒潮と親潮が出合う豊かな漁場があり、本県の海を再現するのにもぴったりの展示だった。飼育は困難とされたが、開館前に繁殖に成功。身近な魚も研究対象とし、ショーなどの派手な仕掛けがなくても興味を持ってもらえる施設が完成した。2000(平成12)年7月15日の開館には、大勢の来館者が詰め掛けた。

 安部さんが夢として思い描いた「生きた化石」シーラカンスの飼育展示は、調査・研究という形で花開いた。01年にプロジェクトを設立し、生息域の学術調査を開始。09年10月には調査隊がインドネシアで生きた幼魚を世界で初めて撮影することに成功した。「少しずつだが生態解明に近づいた」と振り返る。

 ただ11年の東日本大震災は大きな危機だった。アクアマリンは大きな被害を受け展示生物約20万点のうち9割が死滅、流失した。だが、職員の懸命な復旧作業もあり、4カ月後の7月15日には再オープンを果たす。震災から復興したアクアマリン、そして福島。「未曽有の災害から復活し元気になった姿を国内外に発信したい」と、誘致に取り組んだのが世界水族館会議だった。18年にいわき市で開かれると、35カ国の水族館関係者ら約500人が参加し、海洋プラスチックごみ問題や本県の現状について知識を共有した。

 「アクアマリンは水族館職員人生の集大成のつもりで関わってきたが、未完成のまま退任した。今後も発展し、ここで冒険心をくすぐられた子どもが『トム・ソーヤー』のように育ってほしい」と安部さんは願う。

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 あべ・よしたか 東京都出身。東京水産大(現東京海洋大)卒。東京・葛西臨海水族園長、上野動物園長などを歴任。アクアマリンふくしま設立に携わり、2000年の開館時から21年6月まで初代館長を務めた。現在は名誉館長。13年に海洋立国推進功労者受賞。