ブリューゲル展【蝶、カブトムシ、コウモリの習作】大理石上で正確に描写

 
ヤン・ファン・ケッセル1世「蝶、カブトムシ、コウモリの習作」(1659年 Private Collection、USA)

 板やキャンバスなどの、絵画の素材部分を支持体と呼びます。ブリューゲル一族が活躍した時代、ネーデルラント一帯(現在のベルギー、オランダ、ルクセンブルクの地域)では板が支持体の主流であり、寒冷地に育つ硬質なオーク(楢(たる))が好んで用いられました。

 本展においても板の作品が大半を占めていますが、ヤン・ファン・ケッセル1世によるこの作品は、大理石という珍しい支持体に描かれています。大理石は堅牢(けんろう)で変質しにくいため、火や虫食いの被害を遠ざけ、絵画を永遠のものにすると考えられていました。

 ヤン1世の孫であるファン・ケッセル1世は、科学的な視点と洞察力を備え、昆虫などの生き物を正確に描写する腕を発揮しました。また、当時他の地域からヨーロッパにもたらされた生き物に対する知識も豊富でした。本作品でもチョウ類やコウモリ、カブトムシなどが標本のように緻密に描かれていますが、彼らはまるで命を宿し、大理石上で今にも動きだしそうな魅力を湛(たた)えています。コウモリの左下に描かれたクジャクチョウの斑紋なども、支持体である大理石の質感が活(い)かされ、息をのむほどの透明な輝きを放っています。