【北斎を語る】老年期役・田中泯さん 常識を破ってきた人

 
たなか・みん 1945年生まれ。東京都出身。クラシックバレエやモダンダンスを学んだ後、独創的な踊りで世界的に評価される。78年にはパリのルーブル美術館で海外デビューした。俳優としては2002年、山田洋次監督の「たそがれ清兵衛」で初出演を果たし、第26回日本アカデミー賞新人俳優賞と最優秀助演男優賞を受賞。映画出演はほかに「隠し剣 鬼の爪」(04年)、「八日目の蝉(せみ)」(11年)、「永遠の0」(13年)、「アルキメデスの大戦」(19年)など。

 米ミネアポリス美術館のコレクション展「ミネアポリス美術館 日本絵画の名品展」が7月8日に福島市の県立美術館で開幕する。中世から近代までの名作には葛飾北斎(1760~1849年)ら江戸時代を彩った浮世絵師の作品も含まれ、その仕事も見どころの一つだ。「謎多き天才」北斎の生涯に迫った映画「HOKUSAI」(公開中)で、青年期の北斎役を演じた俳優の柳楽優弥さん(31)、老年期を演じた田中泯(みん)さん(76)がそれぞれ、北斎の魅力や作品に込めた思いを語った。(聞き手・編集局次長 佐藤掌)

 無言の対話がある

 ―田中さんは2018(平成30)年に二本松市、いわき市で踊りを披露されていますね。福島県の印象は。
 「大勢の人が見に来てくれて、思い出の踊りとなりました。もう亡くなりましたが、福島で漁業をやっていたおじいちゃんが友達で、その人からもらった漁業組合の帽子が大好きでした。原発事故で僕が住んでいる山梨県に避難しましたが『自分はもう先が長くない。生まれた所で暮らしたい』と帰りました。いまだに帽子は踊るときに時折かぶってます。思い出のたくさんある所です」

 ―映画では、晩年の北斎を演じました。
 「髪形は肖像画を参考にしたりと、それらしくしましたが、何も分からないんですよね。どんな顔で笑ったのかとか。さらに分からないのは彼の内面が暮らしの中でどう動き、生きていたのか。これは分からずじまいです。与えられた台本の中で、北斎の常識に流されない生き方を自分なりに解釈し、そういう人であろうと芝居しました」

 ―自然への力強いまなざしが印象的でした。
 「新しい役をもらったら、とにかく勉強しようと思っています。その人により近づける自分でありたい。知らないけれど、北斎になった気で演じていました。作品では圧倒的に無言の時間が長かった。無言のコミュニケーションというか、話さなくても人は対話できるんですね。これは踊りに近い。ありがたかったです。踊りの現場はお客さんも、とても感覚的です。舞台は目に見えるものだけでできているわけじゃないのです。舞台を映像にすると、その場の『空気』を伝えられない。そういう意味では、映画だとお客さんは理解するための『鍵』を持っている。お客さんを引っ張る言葉がある。それが映画の素晴らしいところですけど。僕は踊っているような気分でしたね」