古くは山岳信仰の霊場だったと伝えられる懸の森。南相馬市小高区の西端で原町区との境界に位置する。県道相馬−浪江線から東に入った鳩原小付近で眺めると、なだらかな山あいに送電線の鉄塔の間から、とがって突き出た山頂が見える。近くで農作業していた人に聞くと、「戦時中は兵士が無事に帰ってくるように、お参りする人が多かった」と教えてくれた。
1998(平成10)年、毘沙目木(びしゃめぎ)一等三角点経由の周遊ルートが整備され、毎年、山開きを行うようになってから10年。
県道から西に折れる大穴登山口から山頂を目指す。右手に植林された杉林、左手に渓流のせせらぎを聞きながら、砂利道を登る。ヤマユリの香りが漂い、セミの鳴き声が反響した。雑木林に囲まれた日陰の登山道を抜けると、急に辺りが開け、鉄塔展望所にたどり着いた。眼下には、うっそうとした深緑の木々の先に小高の町並みが一望でき、太平洋もうっすらと見える。
ササに囲まれた狭い道をくぐり、山頂へ。腰を下ろし、原町の田園と市街地の眺望を楽しむ。ゆっくりと雲が流れ、柔らかな風が汗でにじんだ体に心地よい。近くにそびえ立つ巨岩の懐に大山祗(おおやまずみ)神社が建ち、神秘的な空間を醸し出していた。
登山口から車で約15分の所に日本三大磨崖仏(まがいぶつ)と称される国指定史跡「大悲山の石仏」があり、その圧倒的な存在感とともに信仰の深さを感じ取ることができる。
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