【 大天狗酒造 】 昔ながらの味を追求<本宮市>

 
「伝統を残しつつ、時代の流れにも敏感でいたい」と話す伊藤さん

 本県中央部に位置する本宮市で広く親しまれる地酒「大天狗(だいてんぐ)」は大天狗酒造の代表銘柄。スッキリとした辛口が自慢の銘酒だ。

 「地酒をうたうからには、地元のコメと水を使うのが最低条件」。4代目社長で杜氏(とうじ)の伊藤滋敏さん(61)は社長に就いた15年前、一つの決断をした。

 伊藤さんは都内の大学、醸造試験所を卒業。卸業などでの修業を経て30歳で実家に戻ったころ、「大天狗」の醸造は地域の蔵元が同じ場で酒造りする「集約製造」だった。麹(こうじ)は持ち寄って醸造していたが、以前とは違う味わいに違和感は消えない。意を決し自前の醸造を再開させた。

 南部杜氏らの指導を受け、昔ながらの味を追求。ほとんどの工程が手作業で規模も縮小した。水は同市舘町から湧き出る「雷神清水」を使用、コメは地元農家と専売契約を結び、味の研究を続けた。酵母や麹の量を変化させながら近年やっと、「自分の思う味に近づいてきた」と話す。昔ながらの普通酒は刺し身や煮物などに合い、常連からの「この辛口こそ大天狗」が最高の褒め言葉だ。後味の軽い苦味も豊かなコクを醸し出す。

 時代に合わせた酒造りにも力を注ぐ。香り豊かな純米吟醸や大吟醸に加え、「多くの人が酒を楽しめるようになれば」と若年層や女性が飲みやすい梅酒も開発し、昨年6月にはイタリア・ミラノ国際博覧会(万博)に出展した。「本宮市を基本に、広く酒の魅力を発信したい」との言葉の裏に古里への強い思いがこもる。



昔ながらの味を追い求め作業する従業員

 倉庫整理していて発見
 初代伊藤衆三さん(故人)が1872(明治5)年、倉庫業から当時の流行に乗って小規模で酒造業を開始し、1887年ごろから本格的に取り組む。醸造場所を確保しようと倉庫を整理している際、行李(こうり)から二つの天狗(てんぐ)の面を発見。神よりの授かり物、酒造業開始の吉兆として酒の名前を「大天狗」と名付けた。「醸造元伊藤衆三」としてスタートし、1955(昭和30)年に社名を「大天狗酒造」とした。大天狗酒造(電話)0243・33・2017

大天狗酒造