【 稲川酒造店 】 手間掛け目指す麹に<猪苗代町>

 
麹造りを伝統の「麹蓋法」で行う阿部さん(左)。高品質の麹造りに欠かせない作業だ=猪苗代町・稲川酒造店

 磐梯山の清らかな水と昔ながらの手仕込みにこだわった地域密着の酒造りに取り組む稲川酒造店(猪苗代町)。伝統的手法を守りながら常に新たな味の探究者であり続ける。

 普通酒が主力だったが、日本酒離れが進む中、2005(平成17)年に歴代当主の名を冠した第2銘柄として無濾過(ろか)原酒の「七重郎」を発売。青・赤・黒・白のシリーズは好評で知名度が上がり、看板銘柄に育った。杜氏(とうじ)の阿部毅さん(43)は「最初に手掛け、試行錯誤した酒。苦労した分報われた」と明かす。

 「もろみの成長は、わが子を見守るよう。飲まれるまでは気を抜けない」と阿部さんは話す。麹(こうじ)造りともろみ管理はいまだ手作業を守る。麹蓋(ぶた)と呼ばれる木製の盆を用いて麹を造る。手間は掛かるが米質、蒸米の硬さによって作業ごとに調節でき、目指す麹の品質に近づくという。

 阿部さんが薦める一本は七重郎「黒」。会津産酒造好適米「五百万石」を使い、華やかさの中にしっかりコメの味がある純米大吟醸。もろみを入れた袋をつるして滴を集めて造る。「冷や」を口に迎えると、味の濃い料理に負けない、やや甘口なコメの味が広がる。後味はふわりと消えるため、焼き鳥や白身の刺し身にもお薦めという。

 昨年は阿部さんが生産した酒造好適米「夢の香」を使った純米酒「百十五」が誕生。名前は国道115号沿いに水田があったことから。次の新酒には百十五の「純米吟醸酒」が加わる。新たな看板銘柄に育てる意気込みだ。



 築100年の蔵で酒造り
 1848(嘉永元)年に猪苗代町で創業。社名の稲川は日本酒の命であるコメと磐梯山の伏流水の意味を持つ。歴代当主は「七重郎」を襲名、現在の当主は6代目の塩谷隆一郎代表社員(44)。店は町の中心部に位置し、築約100年の蔵で酒造りを続ける。山田錦仕込みの「稲川・大吟醸」が昨年度全国新酒鑑評会で金賞を受賞するなど、高い評価を受けている。商品は同店や道の駅猪苗代などで販売している。稲川酒造店(電話)0242・62・2001