福島県独自の地酒へ「酒米開発」最終段階 今冬醸造の出来が鍵
全国新酒鑑評会の金賞受賞銘柄数で6年連続日本一となった本県で、大吟醸酒に向く酒造好適米の有望系統「福島酒50号」の開発が最終段階を迎えている。鑑評会に出品される県産酒の約8割は最高級の評価を受ける兵庫県産「山田錦」が使われており、原料や醸造技術を含め全て本県独自に造り上げる「福島ブランド」の確立にはオリジナルの酒造好適米が不可欠だ。県は2020年東京五輪の歓迎行事で県産酒の提供を目指しており、県内7蔵元が今冬に行う試験醸造の出来が鍵を握る。
福島酒50号は、香りが高くすっきりとした甘さが特徴の「芳醇(ほうじゅん)・淡麗・旨口」の県産酒を追求した酒造好適米。精米歩合40%の場合、雑味につながるタンパク質の含有量が少なく、山田錦とほぼ遜色がなかった。
試験醸造は昨冬、県内4蔵元で行われ、18年の県春季鑑評会に鶴乃江酒造(会津若松市)が参考出品した1点が最高水準の評価を受けるなど実力を示した。
一方、コメが溶けやすく味が重くなるといった課題もあり、「扱いにくい」などの意見もある。醸造には高い技術が求められ、同酒造取締役の林ゆりさん(45)は「この酒米を使って、また同じように造れるか分からない。再現性が重要だ」と指摘する。
◆◇ブランド構築
それでも、福島酒50号に日本酒王国のブランド構築を託す声は根強い。山田錦は寒冷地での栽培が難しく、県内ではごく一部の農家しか作付けしていない。本県唯一のオリジナル酒造好適米「夢の香」も芯にある心白まで削ると、割れやすい傾向がある。林さんは「福島は日本一の連覇が懸かっていて攻めと守りの判断が難しい。ただ、県産米で金賞を受賞できれば、大きな売りになる」と期待する。
全国に先駆け「淡麗辛口」のブランドを構築した新潟県は04年に大吟醸酒向けの「越淡麗」を開発。現在は大半の蔵元が従来の兵庫県産の山田錦から切り替えているという。新潟県酒造組合の担当者は「新たなタイプの酒ができ、バリエーションが増えた」と語る。
◇◆課題に『秘策』
「地域の風土に適した酒米を使い『これぞ福島』という地酒を造りたい」。繁忙期を迎えた福島市の金水晶酒造店。今冬、試験醸造に臨む杜氏(とうじ)の菅野和也さん(45)は、酒蔵に運び込まれた福島酒50号の粒を手に決意を口にした。
県ハイテクプラザ会津若松技術支援センターの鈴木賢二醸造・食品科長(57)も「山田錦だけでなく酒造好適米の『雄町』に根強いファンが多いように、県産酒にも新たな引き出しが必要」と消費者の好みの多様化を踏まえた戦略を思い描く。今冬の試験醸造は良質な酒造りの手法の最終確認も求められている。鈴木科長は発酵を旺盛にして「きれいな味」に仕上げるなど課題克服に向けた"秘策"を準備し、各蔵元と共有する考えだ。
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