大熊産米日本酒の名称「帰忘郷」 若松・高橋庄作酒造店が醸造

 
引き渡し式と名称発表会に出席した(左から)氏家さん、高橋社長、吉田町長、吉岡議長、根本会長=大熊町役場

 大熊町大川原地区で本年度初めて栽培された酒米を使って造る日本酒の名称が「帰忘郷(きぼうきょう)」に決まった。醸造は銘柄「会津娘」を製造する会津若松市の高橋庄作酒造店が担当。原発事故後、町役場を一時避難させた縁の深い会津で純米吟醸酒を目指して醸され、来年2月に出来上がる予定だ。23日、町役場で日本酒の名称発表と酒米の引き渡しが行われた。

 名称には、372件の応募の中から、いわき市の佐々木真さん=大熊町出身=の作品が選ばれた。佐々木さんは「帰忘郷」に「原発事故後、町民がばらばらになってしまったが、常に心には大熊町があり、故郷を忘れずにいる」との思いを込めた。吉田淳町長と吉岡健太郎町議会議長が名称を発表した。

 「酒米づくりに関わってくれた人、実ってくれた稲に感謝したい」。町農業委員会の根本友子会長は引き渡し式で、大事に育ててきた酒米を同酒造店の高橋亘社長に手渡した。高橋社長は「町民の思いに沿った味を表現したい」と述べた。

 酒米の栽培や収穫を担当したおおくままちづくり公社によると、町役場西側の水田43アールで育てた酒米「五百万石」は約870キロ収穫された。今月中に放射性物質の検査を行う。

 一般的には10アール当たり最低300キロを収穫できるが、除染により土を入れ替えた影響で、10アール当たり約200キロの収量にとどまった。それでも根本会長は「よくぞ実ってくれた。コメ作りに適した土をつくるには5年以上かかるが震災前のような田園風景を夢見て頑張っていく」と思いを語った。同席した会津若松市観光大使のシンガー・ソングライターで利き酒師の氏家エイミーさんは「町民の多くがこの酒米に希望を抱いている。その思いを広く伝えたい」と話した。日本酒は720ミリリットル入りで約700本製造される見込み。試作品のため販売せず、町の特産品としてPRなどに使われる。町は来年度から日本酒の販売を目指している。