挑戦を続けた蔵人、良質な酒造りに努力 福島県産日本酒8連覇

 
14年ぶりの金賞受賞を喜ぶ(右から)桜井さん、菊地さん、大沼さん

 全国新酒鑑評会で史上最多の金賞数8回連続日本一を達成した本県。各蔵元は新型コロナウイルスの影響で苦境が続く中でも、良質な酒造りに努力を続けてきた。つかみ取った栄誉に喜びと安堵(あんど)が広がった。

 造り方変え返り咲く

 【千駒酒造】「非常にうれしい。コロナで苦しい時期が続くが、自信になった」。14年ぶり4度目の金賞を受賞した千駒酒造(白河市)の社長桜井慶さん(53)は念願だった金賞に笑顔を見せる。金賞の裏には、杜氏(とうじ)や蔵人たちの「挑戦」があった。

 「変化を受け入れて、新しいことにチャレンジしたことが金賞受賞につながったのかもしれない」。同社で杜氏を務める菊地忠治さん(63)は振り返る。菊地さんの長年の経験を頼りに、これまでの製造方法を変更した。ふかしたコメを冷ます過程に工夫を凝らし、もろみの低温管理を徹底。うま味成分のアミノ酸の発生を調整することで淡麗で軽快な口当たりを実現させた。

 「金賞には固定概念を覆して新しいことに挑戦しないといけない」と新しい手法を提案した蔵人の大沼雄二さん(47)。「一か八かだったが、十分な設備のない中で、いかに酒をいい状態にできるか試行錯誤し、考え抜いた結果が出た」と喜びを語る。

 過去10年で4度の入賞を果たしたが、金賞には手が届かなかっただけに「金賞受賞が全国の人に白河を知るきっかけになってほしい。さらにおいしい酒造りを追求していきたい」と桜井さん。社員一丸で挑戦を続けるつもりだ。

 待望の新体制初受賞

 【花春酒造】花春酒造(会津若松市)は、2016(平成28)年9月に事業譲渡で新体制となってから初の金賞。専務の佐藤清さん(74)は「他の蔵元さんに追い付くために努力してきた。時間がかかったが、スタート地点に立つことができた」と安堵の表情を浮かべた。

 金賞は13年(12酒造年度)以来となる。同社は、約3年前から朝礼の際に金賞受賞への目標を社員全員で唱和してきた。取締役で杜氏(とうじ)の柏木純子さん(50)は「会社全体で待ち望んでいた」と金賞の喜びを語る。

 柏木さんは、今回の酒造りを酒米の溶け具合が仕込みの途中に変化する「今までにないパターンだった」と振り返る。そのような中で、他の蔵元と情報交換しながら出来上がった出品酒。「結果が出るまでドキドキだった」という。

 酒造りは心身ともに負担が大きい重労働だ。柏木さんは「いいものができて、それをお客さんに喜んで飲んでもらえると、やっていて良かったと思う」と酒造りの醍醐味(だいごみ)を語った。

 奥の松、12回連続

 【東日本酒造協業組合】「良い酒を造るのは最終的に人。奥の松が金賞を取れたのは蔵人の力が表れた結果だ」。東日本酒造協業組合(二本松市)で理事・杜氏(とうじ)を務める殿川慶一さん(71)は、12回連続の金賞受賞を喜ぶ。

 今回は例年になく酒米が硬く、溶けにくく仕込みが難しかった。「酒米は天然の物。硬さも溶け具合も毎年違う。出来を見て判断する力が必要」と殿川さん。コメに水を吸わせる時間を長く、蒸し米の貯蔵時間を短くするなど、仕込みを絶妙に調整。例年通りにふくよかな香り、膨らみのある味わい、後味のきれいな大吟醸に仕上げた。

 さまざまな良い酒を味わう機会を設け、テイスティング能力を高めてきた成果も発揮された。殿川さんにとっては現代の名工に選ばれて初の仕込み。「自然体に努めた」と、個人的にもほっとした様子だ。

 金賞受賞酒は6月中旬に奥の松酒造から「奥の松大吟醸雫酒十八代伊兵衛」の銘柄で発売される。「飲んだ人に感動を与え、愛される酒を造っていきたい」

 20年ぶり酒蔵復活、初入賞

 【男山酒造店】約20年ぶりに酒蔵を復活させた男山酒造店(会津美里町)は、金賞には選ばれなかったものの酒造り1年目で堂々の入賞。8代目の代表社員小林靖さん(45)は「酒蔵を再生するに当たって、酒造りの先輩方、お客さまなどから支援を受けた。皆さんに恩返しができたかな」と喜びをかみしめた。

 1865(慶応元)年創業の酒蔵の伝統を守るため、昨年、7代目の叔父から酒蔵を引き継いだ千葉県出身の小林さん。自身の新たな挑戦に重ね、酒米には新しい県オリジナル酒造好適米「福乃香(ふくのか)」を使った。ベテランの杜氏の力を借りて出来上がった出品酒は「フレッシュな香りで上品な甘みに仕上がった」。新しい酒米を使っての入賞に喜びもひとしおだ。

 来年の目標はもちろん「金賞」。「もっと自分たちの技術を向上させていくことが必要。男山酒造店の名を広く発信し、多くの人に知ってもらいたい」と気を引き締めた。

 昔ながらの製法貫く

 【寿々乃井酒造店】寿々乃井(すずのい)酒造店(天栄村)は、一昨年に続く金賞受賞となった。取締役の鈴木理奈さん(52)は「例年より仕込みが難しかったが、蔵人の地道な努力が認められた」と喜びを語った。

 創業200年余りの伝統を持つ蔵元。今回は酒造りに向かないとされる冬場の高い気温とコメの硬さに悩まされたが、鈴木さんは「造り方を大きく変えず、昔から貫いてきた方法を守った」と振り返る。基本に忠実な作業を重ね、雑菌が入らないよう器具などを洗って細心の注意を払った。

 また、新型コロナウイルスの感染者が出ないよう仕込み中は蔵人らの遠出を控えるなど酒造りと向き合った。その結果、なめらかな口当たりと香りを兼ね備え、口に含んだ時に鼻に抜ける、持ち味の「含み香」が豊かな逸品に仕上がった。

 前日は緊張から眠れず、当日は発表間もない午前10時ごろに結果を確認したという鈴木さん。「感染症の影響で酒の売り上げも落ちていたが、明るいニュースになった」と笑顔を見せ、「受賞をきっかけに、日本酒の味わいを多くの人に知ってほしい」と期待した。