想定外にも動じずに酒造り 福島県ハイテクプラザ・鈴木賢二氏

 
「難しいコメだったが、本県の酒造りの技術力が証明された」と話す鈴木氏

 蔵元への技術指導などを通し本県の日本酒造りを支える県ハイテクプラザ会津若松技術支援センター副所長の鈴木賢二氏(59)は、他県が本県の酒造りを参考にしている例もあるとし「福島が全国的な酒造りのレベルを向上させるけん引役になっていると言ってもいいのではないか」と話した。

 鈴木氏は「酒造りの過程で想定外の部分があったが、うまく対応できた。本県の酒造りの技術が高いことの証明だ」と各蔵元の努力をたたえる。

 今回のコメは例年にない「硬さ」。硬さは仕込みの際のコメの「溶け具合」に影響する。溶けすぎる(もろみが濃い)と味が濃いものの、酵母の発酵が不良になり「重い酒」「変化しやすい酒」になりやすい。逆に溶けない(もろみが薄い)と発酵はスムーズだが、味が薄く物足りない酒になりやすいという。

 鈴木氏はこのため、鑑評会出品酒の仕込みが始まる前の昨年12月、酒造講習会(通称・作戦会議)で仕込みの水の量を減らすことをアドバイスした。ただ、約1カ月の仕込み工程の前半は「作戦会議の通り」に酒造りが進んだが、想定外は後半。急にコメが溶けやすくなる現象が現れ、各蔵元はさらなる調整が必要になった。

 また、今回から審査方法が少し変わり、甘口・辛口の指標となるグルコース(ブドウ糖)濃度が低い順とのやり方が加わり、関係者から少し甘めの本県酒が不利になるのではという声もあったが、鈴木氏は「そこはあまり関係ないのでは」とする。「強いて言えば、受賞酒は甘い方が選ばれている」のが通例といい、鈴木氏はこれまでの本県のスタイルを変えない酒造りを指導した。

 コメの硬さを知るため、数値化された溶けやすさの指標がある。仕込みの際の温度なども数字で管理されるものだ。近年、全国ではデジタル技術を酒造りに取り入れる動きもあるが、鈴木氏は職人の肌感覚の重要性を説く。「分析は二の次。日本酒は嗜好(しこう)品で、人が飲んでおいしいかどうかを判断する。大切なのは職人の勘です」と説明した。

 今回の鑑評会で、長野県が本県と並ぶ金賞受賞数となった。長野県は「打倒福島」をスローガンに数年前からプロジェクトを組んでいるほか、栃木県や茨城県も本県の酒造りを参考にしているという。

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 すずき・けんじ 三春町出身。岩手大農学部卒。1985(昭和60)年4月に県採用。約30年にわたり酒造りの技術指導に携わり、「日本酒の神様」とも称される。