蔵人がつないだ情熱の結晶 福島県産日本酒9連覇

 
親子で金賞受賞を喜ぶ有賀醸造の有賀義裕さんと裕二郎さん(右)

 全国新酒鑑評会で金賞数9回連続日本一を達成した本県。各蔵元はコロナ禍などの苦境にありながら、良質な酒造りに努め続けた。努力と苦労が報われたことに喜びが広がり、さらなる発展へ決意を新たにした。

 初受賞、父子2代「8度目の正直」 有賀醸造(白河)

 「やっと受賞できてほっとしている」。2014年(13酒造年度)から全国新酒鑑評会に出品し、8度目の挑戦で初の金賞を受賞した有賀醸造(白河市)常務で杜氏(とうじ)の有賀裕二郎さん(38)は安堵(あんど)の表情を見せた。

 同社は有賀さんの父で県酒造組合会長の義裕さん(68)が代表社員を務める。組合の先頭に立って本県の躍進を支えてきただけに、裕二郎さんは「金賞を取らせてあげたいという気持ちが強く、プレッシャーも感じていた」という。

 そんな中、改良を重ね菌の管理を徹底することで華やかな香りと膨らみのある甘さやうまみを実現。「新しくしたこうじ室の湿度などの特徴が分かってきた」といい、切れ味も良く、バランスの取れた酒となった。

 新型コロナウイルス感染による日本酒の需要減少や地震、台風被害などの逆境を乗り越えてつかんだ金賞。義裕さんに電話で受賞を伝えると、明るい口調で「ほっとした。おめでとう」と喜んだという。

 裕二郎さんは「父が土台を築きつないでくれたおかげで受賞できた。その土台をさらに伸ばしていきたい」と笑顔。義裕さんは「(裕二郎さんは)一から酒造りを学び、一歩一歩技術を高めてきた。金賞で慢心することなく良いものを造ってほしい」とたたえた。

 「自然体で」丁寧に 東日本酒造協業組合(二本松)

 「プレッシャーを感じていたが、自然体で酒造りに取り組んだことでいい酒ができた」。二本松市の銘酒「奥の松」の醸造元、東日本酒造協業組合理事で杜氏(とうじ)の殿川慶一さん(72)は、13回連続22度目の金賞受賞に頬を緩めた。

 今季は、酒米が例年のように軟らかく、「とけづらく」する通常の仕込みができた。蔵人と共に毎日、味を確かめ、温度などを調整。香りが高くて味の膨らみと切れのある酒に仕上げた。「うちだけでなく、県内の酒蔵もいい酒を造っていた」と、高レベルの競争を想定していただけに、喜びもひとしおのようだ。

 「連続受賞の更新を次につなげていきたい」と殿川さん。おととしに現代の名工を受賞し、技術を後進に伝承することにも力を入れる。「次は本県の10連覇という区切り。蔵人と一緒にレベルアップし、福島の酒造りに貢献したい」と話した。

殿川さん「一緒に酒造りをする蔵人の成長が見えた」と喜ぶ殿川さん

 「消費拡大」願って 名倉山酒造(若松)

 「酒米の出来がよく高いレベルの争いになると思っていたので、受賞できてほっとした」。金賞の連続受賞を13回に伸ばした名倉山酒造(会津若松市)の専務、松本和也さん(32)は笑顔で話した。

 出品した「名倉山」は甘みや辛みのバランスが良い味わいと、華やかな香りが特長。温度管理に注意し「思った通り」の酒に仕上げた。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、県内での消費量が落ち込んでいるという。「受賞が消費拡大につながるよう盛り上げていきたい」と力を込めた。

松本専務13回連続の金賞受賞を喜ぶ名倉山酒造の松本専務

 復活2年、人の輪を支えに 男山酒造店(美里)

 2年前、酒蔵を約20年ぶりに復活させた男山酒造店(会津美里町)が、堂々の金賞に輝いた。8代目の代表社員の小林靖さん(46)は「蔵人や酒蔵の再生を応援し支援してくれた方など、携わってくれた全ての人の期待に応えることができた」と喜びをかみしめた。

 1865(慶応元)年創業の伝統を持つ蔵元。一度は生産を休止した酒蔵を7代目の叔父から引き継いだ千葉県出身の小林さんは「頭の中は毎日酒のことでいっぱいだった」と無我夢中で酒造りに向き合った。

 原料の酒米には山田錦を使い、精米歩合40%にまで削った繊細で割れやすいコメを丁寧に手洗いし、もろみの温度管理にも神経をとがらせた。さらなる質向上のために仕込み量を減らして完成した出品酒は、華やかな香りや十分な甘みとうま味が感じられる「きれいな味」に仕上がったという。

 昨年は酒造り1年目で入賞し、周囲を驚かせた。今回は2年目にしてさらに大きな快挙を手にしたが、酒造りにおいて「金賞を取ることが目的ではない」と小林さん。「自分たちの技術を磨き続けながら、これからも人の『輪』を大切にした酒造りをしていきたい」と今後を見据えた。

小林さん「これからも人の『輪』を大切にした酒造りをしていきたい」と話す小林さん

 10回連続、より高みへ 松崎酒造(天栄)

 松崎酒造(天栄村)は、新型コロナウイルスの影響で金賞選定がなかった2020年(19酒造年度)を除き、10回連続で金賞を受賞した。松崎淳一社長(64)は「節目となる受賞。ここが新たなスタート」と気を引き締める。

 常に高い水準の酒を造るため、仕込みでは水やコメの質、温度などのデータの分析を重視している。今回も、常温でも香りが際立つ飲みやすい酒ができたといい、松崎社長は「科学的なデータに基づいて常に研究を重ねるのが大切」と強調する。

 現在は、杜氏(とうじ)の長男祐行(ひろゆき)さん(37)や若手の蔵人が中心となって酒造りに取り組む。

 松崎社長は「歩みを止めず、より良い酒を追究したい。まだまだ発展途上だ」と意欲を語った。

松崎社長10回連続で金賞を受賞し、「ここが新たなスタート」と話す松崎社長