金水晶、新酒蔵で再出発 全壊で廃業危機、それでも「福島で」

 
「福島市唯一の酒蔵を残したい」と決意を新たにする斎藤社長

 昨年3月の地震で被災した福島市松川町の金水晶酒造店は、同市荒井の四季の里近くに蔵を新築移転する。今秋に完成予定で、本社機能は松川町に残しながら酒造りを続ける。斎藤美幸社長は15日、「福島市唯一の酒蔵を残し、お酒を通じて福島の良さを伝えたい」と決意を語った。

 金水晶は毎年5月に結果が発表される全国新酒鑑評会の金賞の常連としても知られる。しかし、地震で明治時代に建築された仕込み蔵は全壊判定を受け、廃業の危機に陥った。「一時は心が折れかけ、蔵を畳むことも考えた」と斎藤社長。現在は柱の間に木材を斜めに入れる「筋交い」で補強している状態で、酒造りの設備ももろみを搾る自動圧搾機が損傷し、瓶詰めラインも段差ができてスムーズに動かなくなった。それでも、今冬は従業員が手作業で補いながら酒造りを続けた。

 そんな中、被災を知った相馬市の浜の駅松川浦が昨年4月、金水晶の日本酒を販売する特別コーナーを設置するなど応援の輪が広がった。斎藤社長は「蔵を続けられるのはたくさんの人に応援してもらったおかげ」と感謝する。

 移転先には日本酒と地元のモモやリンゴを使用したリキュールを製造する工場2棟を建設し、直売所を併設する。最大生産量は従来の半分ほどに減少するものの、近年は安価な普通酒よりも吟醸酒などの高級酒が好まれる傾向があることから、少量で高品質の酒造りを目指す。また、工場内を発酵に適した低温に保てる設備も導入し、冬期間以外でも酒造りができるようにする。

 移転先の選定は12年連続で「水質日本一」に選ばれた荒川に近く、ボーリング調査で良質な水が出たことが決め手になったという。周辺には福島路ビールやワイナリー吾妻山麓醸造所があり、金水晶の移転によって醸造による地域活性化や観光誘客も期待される。

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