続く技術革新...ふくしまの日本酒、来年こそは返り咲き、識者談話

 
金賞を受賞したほまれ酒造の酒を手に、「福島の酒のうまさは分かっている」と語る吉田さん

 酒類総合研究所(広島県)は24日、2022酒造年度(22年7月~23年6月)の日本酒の出来栄えを競う全国新酒鑑評会の審査結果を発表した。本県は14銘柄で金賞を獲得したが、都道府県別の金賞受賞銘柄数でトップを逃し、節目となる10回連続の「日本一」はならなかった。

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 酒場詩人・吉田類さん「福島の酒はうまい」

 県産日本酒の魅力をPRする「ふくしまの酒マイスター」を務める酒場詩人吉田類さん(73)は、本県が10連覇を逃したことに「期待していただけに残念に思う」と肩を落としつつも「福島の酒造りの技術の高さは全国に知られている。福島の酒蔵の皆さん、結果を気にせず、また頑張りましょう。福島の酒はうまい。来年こそは日本一に返り咲きだ」と激励した。

 原発事故に伴う県産品の風評払拭のけん引役となってきた日本酒。「酒蔵は震災後、風評など厳しい時もあったと思うが、技術で乗り越えてきた。そこに金賞受賞数の日本一は追い風になっていた。震災直後から復興を支援してきた立場としては、10連覇で盛り上がりたかった」と悔しがる。

 本県の酒造りの特長として、酒蔵の団結力や情報共有を挙げ「福島の取り組みが全国に広がり、全体のレベルが上がった」とみる。福島の酒が日本酒業界を先導しており「福島の日本一が当たり前になっていたが、金賞獲得に向けて技術を高めることが本質だ。そういう意味では福島は大きく貢献した」とたたえた。

 特に本県の若手の蔵人の躍進に注目している。「日本酒の好まれる味は時代によって変わるため、昔の酒造りに固執するのは駄目だ。その点、福島の蔵人は革新的なことができて、排除する雰囲気もなく素晴らしい」とし「僕は日本酒を楽しませてもらうだけ。福島のお酒はおいしいよということを言い続けたい」と語る。

 新型コロナウイルス禍が落ち着く中、酒場ににぎわいが戻りつつある。この間、人気番組「吉田類の酒場放浪記」(BS―TBS)の放送は途絶えることなく続いており「番組で紹介する酒場は大事な日本の文化。経営が苦しい店も多く、酒蔵にとっても相当なダメージがあったろう」と心を寄せる。早く日常に戻り「酒場で福島の日本酒を酌み交わしたい」。県産酒を愛する左党が福島を見守り続ける。

 福島大食農学類教授・藤井力さん「技術の高さを証明」

 酒類総合研究所で、利き酒を担当してきた福島大食農学類の藤井力(つとむ)教授(59)=発酵醸造学=は「金賞数は14銘柄に減ったが、昨年2位の13銘柄を上回っている。全国的にレベルが高くなった結果で、福島はしっかり上位に残り技術の高さを証明した」と評価した。

 藤井教授は2013年度から18年度まで、同研究所で全国新酒鑑評会を担当する部門長を務めた。「これだけひしめく中で福島が9連覇していたことが奇跡的なこと。野球で巨人のV9が今でも語り継がれるように50年、100年後に見返した時に福島の9連覇は『黄金期』と言われるぐらいすごいことだと受け止めてほしい」と強調した。

 一方、金賞受賞数で日本一となった山形県については「いいお酒を造る県の一つだ」とし、生産技術を着実に向上させてきた県だと印象を語った。山形県は2016年に地域ブランドを守るため、国税庁の地理的表示(GI)保護制度で、日本酒分野では国内初となる県単位の登録を受けた。日本酒産地「GI山形」を押し出し県全体で品質管理や生産技術を磨いてきたという。

 また18年には、世界最大規模のワイン品評会「インターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)」の日本酒部門の審査会を山形県が誘致。藤井教授は「福島が酒蔵同士が仲が良く高め合ってきたように、山形もまとまって技術力を高めてきた成果が今回の結果に表れたのではないか」と分析した。

 今後の本県については「若い杜氏(とうじ)も出てきて、しっかり福島のブランド力は培われている」とし、「これからも上位に残る力はしっかりある」と期待した。

230525sake703.jpg 「上位に残ったのは若手杜氏が育ち、福島のブランドが守られている証拠だ」と評価する藤井教授


 県酒造組合特別顧問・鈴木賢二さん「コメの硬さ、対応で命運」
 
 県内の酒蔵を長年にわたり指導する県酒造組合特別顧問の鈴木賢二さん(61)=磐梯町=は「大きな期待を寄せられていたのに残念」と厳しい表情で振り返り、「やはりコメの硬さへの対応が難しく、命運を分けた」と話した。

 鈴木さんによると、ほとんどの県内酒蔵は兵庫県産の酒米「山田錦」を使っている。コメの硬さを予想する際に、3年前とほぼ同じと考え、当時の情報を酒蔵に提供した。だが、実際は想定以上に硬くて溶けにくく、現場で扱いに困惑するケースがあったという。

 原因は昨年9月に兵庫県で暑い日が続き、コメが急激に硬くなった。そのため香りや味に影響した。鈴木さんは「コメがより硬いと分かっていれば、仕込みの配合を変えて対応するなどしてもっと香りを出せた。次の酒造りに向けて課題を整理したい」と話した。

 県外もコメが硬いという条件は同じだが「山形県などは技術が高いので対応できた」と分析。その上で近年の鑑評会のトレンドは「ボディー感」(味わいのコクなど)だとし、「そこで劣ったかもしれない。もっと香りや甘みを求める。来年こそはダントツの日本一を目指す」と力を込めた。

230525sake702.jpg全国新酒鑑評会の結果を振り返る鈴木さん