【ふくしまの酒/金の系譜・上】「王国」支える清酒アカデミー
県産日本酒は全国新酒鑑評会の金賞受賞数で10回連続の日本一を逃したが、金賞14銘柄を含む28銘柄が入賞した。入賞数はトップの長野や新潟に次ぐ数を獲得し、「日本酒王国」の底力を証明した。継続して高品質な酒を生み出す背景や一層のブランド強化、海外市場に挑戦する県内酒蔵の動きなどを追った。
2年連続の金賞受賞
本県の酒造りの担い手育成を担うのが、県清酒アカデミー職業能力開発校(清酒アカデミー)だ。県内製造場の従業員や経営者、後継者が入校し、計325人の卒業生が酒造りの現場を支えている。
「風通しの良い環境で酒造りの過程を論理的に学ぶことができ、酒造りの自信につながった」と話すのは、男山酒造店(会津美里町)代表社員の小林靖さん(47)。2019年に入校した28期生で、今年4月に卒業。酒造りを始めて日は浅いが、今回の全国新酒鑑評会では2年連続で金賞を受賞。1865年創業の酒蔵を引き継ぐため千葉から移住し、会津若松市の蔵元で修業をしながら座学や醸造試験、蔵元見学など質の高い酒造りの基本や応用を学んだ。
1992年開校の清酒アカデミーでは、県ハイテクプラザ醸造・食品科の職員の指導の下、年間107時間の授業に臨む。卒業試験に合格すると、酒造りのプロ「酒造士」の認定を受ける。現在は20~40代の27人が受講している。
次世代につなぐ覚悟
「杜氏(とうじ)や蔵人の考え方に沿った作業は、次第に経営者としてのこだわりも生まれてきた」と小林さん。全国区で活躍する蔵元を見学し、造りの詳細や設備投資の知恵と工夫を学び、自身の蔵にも取り入れた。
同期生の存在も醸造技術の向上につながっている。授業後には酒を飲んで各蔵独自の技術の意見を交わし、卒業後には新商品の作業状況などを報告し合っている。
「コメや技術にもこだわりたいが、お酒が出来上がるまでのストーリーも大事にしたい」。約20年ぶりに蔵元を復活させた小林さんは、酒造り2年目に杜氏の猪俣一徳さん(72)が手がけたコメ「天のつぶ」を掛米(かけまい)、県オリジナル酒造好適米「夢の香」を麹米(こうじまい)に使った「INOMATA65」を開発した。一度は酒造りから身を引いた猪俣さんが杜氏となり、酒蔵の再生を支えてくれた感謝の思いが込められている。
小林さんは「福島のお酒を全国、世界に広めたい。貢献できるように質の向上に努める」と意欲を示す。県産酒の魅力を伝え、次世代につなぐ覚悟だ。
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