【食物語・福島のブルブル】 昭和の名物料理『復活』 震えるおいしさ

 
昭和の味として福島市民に愛されるブルブル。豚肩ロース肉は香ばしく焼き上げられ、ピリ辛ソースで味付けされる=福島市・ロザージュ

 「ブルブル」。福島市出身にもかかわらず、ここ数年、転勤で古里を離れていたため、この妙な響きを持つ料理についてほとんど知らなかった。「駅前で食べられるよ」。先輩記者の"頼りになる助言"を手掛かりに早速、食事を兼ねて取材へと向かった。

 「きっとプリンのように震えるほど軟らかい食べ物のはず」。名前から料理のイメージを膨らませて、訪れたのはJR福島駅前のホテル辰巳屋8階にあるレストラン&バー「ロザージュ」。同市観光コンベンション協会から「詳しい人がいる」と紹介された場所だ。

 「ブルブルは市民に愛された洋食店の名物料理だったんだ」。同ホテル運営部長、花井徳良さん(56)が教えてくれた。かつて同市新町にあった市内で草分け的な洋食店「レストラン ブルドック」。店を切り盛りしていたのが故大槌博孝さん夫妻だ。1962(昭和37)年の開店当初は7坪ほどしかなかったこの小さな店で生まれた名物料理がブルブルだった。

 特製ソースで味付けして焼いた薄切りの豚肩ロース肉を、皿に敷いたレタスにのせ、タマネギの輪切りをトッピングする。こしょうなどの辛みと、しょうゆのうま味で「体がブルブルと震えるほどおいしかった」のが料理名の由来。市街地で忙しく働くサラリーマンのため、すぐに作れ、ご飯が進むおかずとして考案されたという。

 「頑固な人でね。ほかにも洋食のメニューはたくさんあったけど、機嫌の悪い日は面倒なメニューを作らなかった」。大槌さんの思い出を聞くために訪ねた同市に住む大槌さんの長女和子さん(64)が当時を振り返った。和子さんも店を手伝っていたが、2005年、大槌さんが亡くなったことがきっかけとなり惜しまれつつ閉店。ブルブルも一時姿を消した。

 ◆再現に試行錯誤

 料理を復活させようとの機運が高まったのが、閉店から10年後の15年。福島駅前の飲食店の有志が協力して懐かしい味の復活に取り組んだ。その事務局を務めたのが花井さん。特に苦労したのは味の再現だった。「ブルブルを食べた人たちに聞いて回ったが、納得のいくものができなかった」と話す。最終的に頼ったのが和子さん。和子さんの助言をもとに試行錯誤して、ようやく料理が出来上がった。

 ロザージュのブルブル(ランチセットで税込み1550円)はゴマ油で焼いた肉の香ばしさが特徴で、タバスコなどが入ったピリ辛ソースが食欲をそそる。レモンの皮が散らしてあり、さっぱりとした後味だ。これは確かにご飯が進む。この料理をこれまで知らなかったことを後悔した。

 ◆独自色もプラス

 ブルブルは現在、福島駅前の10店舗で提供されており、味のアレンジを加えた独自のブルブルを出している店もある。「店ではあなたのような新聞記者も食べていたわ。途中で呼び出されて飛び出していって...」と和子さんが思い出も話してくれた。古き良き昭和の福島を思い起こさせてくれる料理。それがブルブルの本当の味わいなのかもしれない。

食物語・福島のブルブル

《1》DUCCAエスパル福島店《2》イヴのもりダイニングラウンジ《3》ザ・ホテル大亀レストラントータス《4》益蔵《5》珈琲グルメ《6》イタリア厨房麦畑《7》ガーデンカフェエム《8》サイトウ洋食店《9》ダンケシェーン中合福島店《10》ホテル辰巳屋レストラン&バーロザージュ 

食物語・福島のブルブル

食物語・福島のブルブル

(写真・上)ご飯が進むおかずとして考案されたブルブル。「体が震えるほどおいしい」というのが料理名の由来(写真・下)香ばしく焼き上げられた薄切りの豚肩ロース肉

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【ロゴマークが目印】ブルブルは、福島市のJR福島駅前にある飲食店の有志が連携した「福島駅前通り商店街活性化フードプロジェクト」の一環として再現された。現在は10店舗で「ふくしまブルブル」として提供している。復活させたブルブルを基本に、オリジナルの味付けを加えている店もある。「レストラン ブルドック」のロゴマークをモチーフにしたふくしまブルブルのロゴマークもつくり、提供店舗で使用。中心市街地の新たな名物として市内外への発信に力を入れている。