【食物語・ホッキ貝】 復活遂げた『相馬の宝』 甘みと軟らかさ特徴

 
郷土の味として定着しているホッキ飯(税込み1200円)。貝好きでなくても箸が進む=相馬市・お食事処 旭亭

 東京電力福島第1原発事故の影響で、現在も手探りの状態が続く本県の漁業。相馬双葉漁協(相双漁協、相馬市)は、徐々に魚種を増やしながら行っている試験操業の対象に今年6月、地元名産のホッキ貝を加えた。古くから相馬地方の味として親しまれてきたホッキ貝の復活。味覚で復興を実感できるとあって、漁再開が地元住民の活力につながっている。

 冷たい親潮と温かい黒潮が交わる潮目の相双沖では明治時代からホッキ漁が行われ、特に相馬市磯部で水揚げが盛んだった。相双沖のホッキ貝は温暖な気候と栄養豊富な海水の影響などで成長が早く、他の産地に比べて強い甘みと軟らかさが特徴だ。

 乱獲で個体数が減り下火になった時期もあったが、旧磯部漁協が1977(昭和52)年から漁期の前に個体数を調べ、あらかじめ漁獲量を決める方法に移行。継続的な資源管理が奏功し、同漁協は昭和末期まで、単独の漁協では全国1位の水揚げ量を誇った。この資源管理型の漁は、合併後の相双漁協に引き継がれている。

 ◆多彩な楽しみ方

 相双沖のホッキ貝は漁獲量の多さと、食味の良さから地元の味として広まった。コキコキとした食感と甘みが心地良い刺し身。火を入れることで食感が変わる天ぷらは、サクサクとした衣との調和が癖になる。ホッキ貝を使った料理の中でも郷土の味として定着しているのが炊き込みのホッキ飯。たれが染み込んだご飯とプリプリとしたホッキの組み合わせに、貝好きでなくても箸が進む。

 相馬市の松川浦周辺には、「ホッキ飯」ののぼり旗を掲げた飲食店が数多い。各店は競い合うかのように味を追求、地元の食文化の形成に一役買ってきた。おいしいホッキ飯を求め、松川浦の高台にある「お食事処 旭亭」(相馬市尾浜字牛鼻毛66、電話0244・38・7327)を訪ねた。旭亭では、炊き上がったご飯と、ご飯とは別に煮たホッキを提供前に混ぜ合わせてホッキ飯を仕上げる。

 こうすることで身が硬くなり過ぎず、ホッキ本来の食感が楽しめるという。「ホッキは量が取れて用途も広い。相馬地方の食文化を語る上では欠かせない食材だね」と店主の菊地征昭さん(74)。口に広がるホッキ貝の優しい味わいとうま味に、のみ込むのがもったいなくなる。試験操業で入荷量が限られているため、現在は地元産を使えない時もある。

 ◆家庭の味がある

 自宅でもホッキ飯を作ってみたくなり、相双漁協参事の渡部祐次郎さん(53)に貝のむき方を聞いた。

 海水の流出、流入口である「水管」を出す隙間にナイフなどを差し込んで貝柱を切り離し、貝を開いて身を丸ごと引き出す。その後、身から水管を取り除き、ひもの周囲を指ではがして内臓を取り出す。食べられる部分のひもと身をコメと一緒に炊き込んでも良し、別々に味付けしたご飯とホッキを、ご飯が炊き上がった後に混ぜてもおいしい。

 相馬地方ではしょうゆベースの味付けが主流だが、地域によっては塩なども使うようだ。「それぞれ味付けは違うけど、ホッキ飯は家庭の味になっている」と渡部さん。妻にお願いして早速、わが家の「家庭の味」に加えてもらおう。

食物語・ホッキ貝

食物語・ホッキ貝

(写真・上)松川浦周辺の飲食店に掲げられたのぼり旗(写真・下)炊き上がったご飯と別に煮たホッキを混ぜ合わせて仕上げるホッキ飯。身が硬くならずホッキ本来の食感が楽しめる

 ≫≫≫ ひとくち豆知識 ≪≪≪

 【直売所は地元の海の幸満載】相双沖のホッキ貝は相馬市磯部地区水産加工施設の直売所で購入できる。1袋約1.5キロ入りで1000円。ホッキ貝が初入荷した6月上旬には開店前から列ができ、約300キロが15分足らずで売り切れた。ホッキ貝の入荷は漁次第となるが、店頭にはツブ貝やコウナゴ、シラスなど地元の海の幸が並ぶ。営業時間は午前9時~午後3時30分。日曜日、祝日が休業。問い合わせは相馬市磯部字大迎1126の直売所(電話0244・33・5111)へ。

 【肉厚で軟らかく甘み豊か】相双沖のホッキ貝は2~5月が産卵期のため、相馬双葉漁協は漁期を6月~翌年1月と定めている。生のホッキ貝は足先が黒褐色だが、熱を通すと鮮やかな紅色に変わる。貝の大きさは大人の握りこぶしほど。北に寄る貝と書くように、北海道で漁獲量が多い。相双沖が国内でホッキ貝を取れる南限とも言われている。相双沖はホッキ貝が育つのに適した環境で、肉厚な上に軟らかく、甘み豊かだ。