【健康長寿・現実(4)】初期診療が命運分ける 脳梗塞、警戒要因五つ

 
脳梗塞患者へのカテーテルを使った治療の様子。早期の治療で完治する可能性も高くなる

 「この症状は脳梗塞じゃないか」。正午すぎ、県南のある病院に屋外トイレで倒れた70代男性が運び込まれた。辛うじて会話はできたが、ろれつが回らず、左半身が動かない。

 担当したのは福島医大の脳神経外科の医師。医大から日当直(休日に診療する医師)が派遣されており、この日は偶然、脳神経外科の医師が診療していた。

 初診を担当したのが専門の脳外科医だったことは男性の運命を左右する。すぐMRI検査を行うと、右側の脳の主要な太い血管が詰まった脳梗塞と判明した。

 受診からわずか30分で診断を下し、詰まった血栓(血液の塊)を溶かすためt―PA(血栓溶解薬)を投与。同時にドクターヘリを手配、福島市にある福島医大病院への搬送を始めた。

 連絡を受けた脳神経外科では休日だったため、急きょ治療チームを集め、脳血管のカテーテル治療を行うために検査室で準備に取り掛かった。

 医大に到着したころには薬の効果で、初診の時より意識ははっきりしていた。到着から30分ほどで治療が始まり、夕刻前には血栓を取り除いて血流が再開、すべての治療を終えた。

 食生活の欧米化により、脳梗塞の患者が増えた。国が発表した日本人の死因別死亡率の最新調査では、本県の脳梗塞の死亡率は男性7位、女性5位と悪い。

 脳神経外科教授の佐久間潤(52)は「脳梗塞は初期診療が重要」と強調する。「東北人は我慢強いので『きょうは休日だから、あした行こう』と完治するチャンスを逃してしまう。ろれつが回らない、手足が動かなかったら、すぐに救急車を呼んでほしい」

 2005(平成17)年にt―PAが認可され、カテーテル治療の技術も進んだことで脳梗塞の治療は一気に進歩した。数年前までは発症から3カ月後に自立して帰宅できたのは10人に1人ほどだったが、今は3~4人が帰宅できている。

 治療を受けた70代男性は数々の幸運が重なり、術後13日目に退院した。しかし同科准教授の小島隆生(46)は「普段から気を付けていれば防げた病気だったのではないか」と指摘する。男性は高血圧の持病のほか、検診などを受けておらず心臓が細かく動く心房細動(不整脈の一種)には無自覚だった。

 脳梗塞を引き起こすのは〈1〉高血圧〈2〉糖尿病(高血糖)〈3〉高コレステロール〈4〉喫煙〈5〉不整脈―の五つが危険な要素とされている。「心房細動があると血栓ができやすくなる。もし男性が不整脈の治療を受けていれば、脳梗塞の病気は発症そのものを防げたかもしれない」(文中敬称略)