〔健康長寿対談〕内堀知事・五阿弥社長 福島県民が元気で笑顔に

 
「健康長寿県づくり」をテーマに対談する内堀知事(右)と五阿弥社長

 内堀雅雄知事は福島民友新聞社の五阿弥宏安社長・編集主幹と対談し、震災と原発事故以降、県民の健康指標の悪化が目立つ現状への危機感や健康寿命を延ばすための取り組み、健康長寿県づくりへの思いなどを語った。

 内堀知事・関心高める工夫を、五阿弥社長・行動力で活力社会

 五阿弥 復興の歩みは着実に進んでいるが、一方で非常に気になるのが、県民の健康指標の悪化だ。2010(平成22)年の調査では、男性は健康寿命が全国34位、女性は16位だった。しかし、13年の調査では男性は41位、女性は35位となった。しかも急性心筋梗塞の年齢別死亡率は男女ともに全国ワースト1位で、健康寿命に赤信号がともっているといえる。

 内堀 急性心筋梗塞の死亡率は全国的に減少傾向にある。しかし本県は男性が若干減少しているものの、女性は減少していない。また、震災を契機にメタボリックシンドローム該当者の割合が増加した。14年度の17.1%は全国ワースト2位。メタボの増加は長期的な心血管疾患の発症リスクを高め、急性心筋梗塞の発症をますます高める恐れがある。もともと急性心筋梗塞の死亡率が高かった本県にとって重大な問題だ。

 五阿弥 本県の復興再生を考えると、除染や廃炉作業などの進展は当然。しかし人材育成と、県民の命と健康を守ることが本当の意味で復興になる。

 内堀 東日本大震災、東京電力福島第1原発事故、新潟・福島豪雨(2011年7月)という未曽有の災害から復興するという思いを私は県民の皆さんと共有している。そのためには単なるインフラ復旧だけでなく、県民一人一人が元気になることが大前提だ。元気であることの本質は「健康」。これが復興の重要なテーマであることを県民の皆さんと共有したい。自分自身の生活習慣を見直し、行動習慣を変えることが何よりも大切。取り組みを継続することで個々人が元気になり、やがて地域全体に笑顔の輪が広がってほしいとの思いを持って健康づくりを進めていく。

 五阿弥 健康指標について、問題視される項目を二つに分けて考えてはどうだろうか。震災と原発事故直後に問題となった子どもの肥満と運動能力の低下。これは改善の兆しが見える。しかし、急性心筋梗塞など他の疾患については震災前から悪かった。生活習慣など、県民生活の中に潜在的な問題があるのではないか。

 内堀 ご指摘の通り、震災前から構造的に存在している課題とは分けて考える必要がある。県民の皆さんが健康について関心を高めるような意識・動機付けが不十分だったことが根本的な理由だ。生活習慣病の予防において運動が必要なことは当然。野菜をしっかり摂取し、塩分を抑える食事を心掛けるという食生活も重要。ところが塩辛い味付けを好む傾向や、車社会の浸透で歩く習慣が激減した。これに震災と原発事故の影響が重なり、健康指標の悪化に拍車が掛かった。

 五阿弥 車社会の浸透で歩く習慣が減ったという問題の解決は難しい。ただ、県民に歩いてもらえるような工夫が求められる。県として県民の健康寿命をどう延ばしていくのか。

 内堀 健康寿命を延ばすため県が取り組んでいるのが「チャレンジふくしま県民運動」だ。県民一人一人が健康に向けた取り組みに身近なところからチャレンジしていくことで人も地域も笑顔で元気―にしていこうと考えている。「食」「運動」「社会参加」の三つが健康寿命を延ばすためのキーワードになる。
 まず「食」の取り組みは「減塩&野菜を食べよう大作戦」をスーパーや企業などと連携して展開している。学校で子どもたちが健全な食生活を学ぶ食育も推進している。
 「運動」の取り組みでは、昨年6月から「ふくしま健民アプリ」を提供している。このアプリは日々の歩数や健康関連のイベントに参加することでポイントをもらえる仕組みで、目標ポイントを達成すると特典が盛りだくさんの「ふくしま健民カード」を獲得できる。また、ぜひ広めたいのがウオークビズとワークサイズ。ウオークビズでは、通勤靴をスニーカーなど歩きやすい靴に替えることで階段の上り下りも楽になる。立ったまま会議をするといったワークサイズも役所や企業に広めたい。
 子どもについては、体力や健康に関する調査結果を高校3年生まで継続して記録できる「自分手帳」を配布、学校と家庭が一体となり運動習慣、食習慣を改善する取り組みを進めている。
 「社会参加」については、福島医大の健康増進センターと連携し、市町村ごとの健康寿命を算出、課題の「見える化」を進める。企業には保健師と専門職で構成する専門チームを派遣、健康経営のモデル事業所づくりを進めている。健康に関わる意識を前に進めたい。

 五阿弥 内堀知事の出身地・長野県もかつて短命県だった。それがいまや男女ともに健康長寿で都道府県トップとなっている。いくつか要因はあるが、減塩運動を県民運動として取り組んだことが健康指標の改善に結び付いたと聞いている。長野県の先進的な取り組みは本県の参考になるのではないか。

 内堀 長野県は、県を挙げて減塩運動を展開し、野菜摂取を増やそうと取り組んでいた姿を子ども心に記憶している。長野の長寿日本一も一朝一夕ではない。ポイントは二つで「継続性」と「地域ぐるみ」。県民全体で継続的に健康づくりに取り組んできたことが成功した要因。食生活の改善はいきなり大きく変えることはできない。少しずつ改善することで長続きしたのではないか。また減塩運動を地域ぐるみで行ってきたことも成功の要因だと思う。

 五阿弥 内堀知事は長野県が長寿日本一になったポイントに「地域ぐるみ」を挙げたが、長野の場合は医師や保健師などが各地域を積極的に回り、公民館などで減塩の大切さや運動の必要性を説いた。本県でも病気になる前の予防の大切さを広げる運動が必要に思える。

 内堀 まさにその通り。行政が県民に働き掛けることも大切だが、保健師や栄養士、医師、看護師ら専門家が働き掛けることで説得力も増す。長野県の取り組みを参考に、本県として県民にどのようにメッセージを届けるのか工夫していく。

 五阿弥 「人生百年時代」などの言葉を聞くようになったが、われわれの意識の持ち方、行動力によって活力ある高齢化社会が実現できる。まさに県民一人一人の意識、行動が健康県づくりにつながる。知事から県民へのメッセージを。

 内堀 健康指標は結果論。県民の皆さん一人一人に元気で笑顔になってほしいとの思いから、すぐに実践できる試みを三つ紹介したい。
 一つは、体重計に乗る。体内脂肪、体内年齢などさまざまなデータを計測できる製品も出ている。そうした体重計に毎日乗ることで身体に関するデータを把握できる。私も震災前から10年ほど続けているが、これにより生活習慣、食生活は必ず変わる。
 二つ目は、立つ時間を増やす。会議・打ち合わせも立った方が短くコンパクトにできる。年配の方がテレビを見ているときに立つ時間を増やすだけで体の代謝が変わる。この生活習慣をつくることは決して難しくないと思う。
 三つ目は、大きな声であいさつする。あいさつするときは自然と笑顔になるので、あいさつの習慣を身に付けることが健康にとっても大切。ぜひこの三つを習慣付けて実践していただきたい。