【健康長寿・減塩(1)】濃い味から卒業 塩分過多のリスク意識

 

 県民の健康長寿実現に向け、高血圧の原因となる食塩の過剰摂取を防ぐことが鍵になると指摘されている。長い歴史の中で培われてきた食習慣を変えることは簡単ではないが、草の根の取り組みは広がりつつある。

 「減塩」をテーマに、健康へのヒントを探る。

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 「おかしいなあ。俺だけかな」

 今年のある昼、会津若松市の総合病院。ポリープ除去手術のため入院していた下郷町の男性(73)は、病院が出した昼食に疑問を感じながら食べ終えた。

 カーテンで仕切られているため、隣の患者の様子は見えない。片付けに来た病院の女性職員に、たまらず聞いた。「あのう、俺にみそ汁出すの忘れてない?」

 朝食には出た。以前入院した際、3食ともみそ汁が付いていたことも覚えていた。

 職員は答えた。「みそ汁は朝だけになりました。福島県民は塩分が多いから、高血圧対策です」。

 説明に「あっ」と驚いた。もともと健康に関心が高かった男性は、退院してすぐ、妻(73)に言った。「俺たちも、みそ汁の回数減らすべ」

 食塩の過剰摂取は、血圧の上昇につながる。厚生労働省の直近の調査(2015年)によると、本県の急性心筋梗塞の死亡率は全国で最も高く、脳血管疾患、脳梗塞もワースト5~11位だ。高血圧は、こうした病気を引き起こす大きな要因だ。

 男性は、今は大川ダム(会津若松市、下郷町)の底に沈んだ山間部の集落で生まれた。戦後しばらく、冬の豪雪の時期は保存食が日々の食事を支えていた。

 冬に備えダイコン、ゴボウ、ニンジン、ナスなどをみそ漬けに、ハクサイは塩漬けにした。集落には魚や肉を売る店はなく、行商人から塩漬けのホッケなどを箱単位に購入して保存した。

 「歴史的な習慣が今につながっていて、濃い味に体が慣れている。塩分は若い頃の力仕事には不可欠だが、過剰に取ると寿命が縮む。食文化を意識的に変えていかなければならないのだろう」

 県の昨年度の調査によると、県民の1日当たりの塩分摂取量は男性11.8グラム(国の摂取基準8グラム未満)、女性9.9グラム(同7グラム未満)。基準を大きく上回る。

 白河厚生総合病院に総合診療医として勤務する高田俊彦医師(37)は、2015(平成27)年4月に京都市から同病院に移った。赴任当時、白河市内でそばやうどんを外食した際、漬物が付いてくることにカルチャーショックを受けた。

 福島医大などが同病院に設置した寄付講座「白河総合診療アカデミー」のメンバーとして、病気の治療だけでなく予防に取り組もうと考えていた頃の出来事だった。「塩分過多が、この地域特有の問題ではないか」

 栄養士と協力して病院の食堂の減塩メニューを開発、減塩の啓発のための講座を地域で開くなどの活動を始めた。「減塩に興味がない人の意識を、どう高めていくかが課題だ」

 一方、下郷町の同夫妻の食卓。みそ汁は朝だけ。昼と夜は、代わりにヨーグルトや温めた牛乳が並ぶ。漬物もあまり食べず、サラダを多く食べるようになった。

 男性があの時、女性職員に疑問をぶつけたことがきっかけで、食生活が大きく変わった。妻は言う。「最近は、外食するとしょっぱく感じるようになったね」