【健康長寿・過信(4)】受診促しても放置 低い県民の危機意識

 
福島商工会議所が開く健康経営セミナー。7月の第1回では、フィットネスクラブ運営会社「RIZAP(ライザップ)」のトレーナーを講師に運動について学んだ。

 「自覚症状はなくても血管のダメージは確実に進み、重大な疾病を引き起こす恐れがあります」「今この瞬間も動脈硬化・血管障害は進行しています!」。

 中小企業で働く人の健康診断などを担う全国健康保険協会(協会けんぽ)が「未治療者」に送る文書にはこのような恐ろしげな言葉が並ぶ。

 未治療者とは、健診で収縮期血圧が「160」以上など血圧値、血糖値が一定の基準を超えているにもかかわらず、医療機関を受診していないとみられる人たちだ。

 協会けんぽの2010(平成22)年度の分析では、健診で高血圧や高血糖とされたことを受け、医療機関を受診した人は4割前後にとどまっていた。健診結果が治療に生かされていない実態を重くみて、13年度から未治療者へ文書を送り受診を促す事業を始めた。

 協会けんぽ福島支部は、本県の未治療者の実態は全国と比較しても特に深刻だと捉え、健康意識の啓発に努めている。同支部によると16年度、未治療者6181人に文書で受診を促したが、このうち3カ月以内に受診した人は571人でわずか9.2%にとどまり、全国平均の9.8%を下回った。

 「血圧や血糖値を放置することの危険性を、自分ごととして捉えてほしい」。同支部企画総務部保健グループの中川知子さん(40)は切実な思いを語る。

 厚生労働省の15年調査で急性心筋梗塞の死亡率が全国ワースト1位になるなど、健康指標の課題が指摘される本県。一方で、県民の危機意識の低さをうかがわせる調査結果がある。

 ソニー生命保険が今年2月に発表した47都道府県別生活意識調査では、都道府県の各100人に健康状態を百点満点で聞いた。本県は63.1点で4位。自然豊かな風土に囲まれていることで健康だと思いがちになるのか、実際は高血圧やメタボリック症候群該当者も多い実態と比べ「甘い認識」が浮き彫りになった。

◆「健康経営」に取り組む 

 そんな中、働き盛りの従業員の健康意識を高めようと、「健康経営」に取り組む事業所が県内にも増えている。福島商工会議所は本年度の重点事業として健康経営セミナーを開始。会員事業所を対象に運動や食事、睡眠などテーマごとに来年2月まで全6回開催する。

 セミナーの担当者は「健康指標が悪いのは、他県よりも取り組みが遅れていることを示しているのかもしれない」と強い危機感を抱く。

 地質調査などを手掛ける三本杉ジオテック(福島市)。健診で要治療とされた従業員への受診勧奨などに力を入れ、経済産業省から「健康経営優良法人」に認定されている。

 「技術者は独り立ちまで時間がかかる。社内の技術者に、長く勤めてもらいたいという思いがある」。 総務部部長代理の菅野美佳さん(52)は健康経営への思いを語る。「健診結果を放っておいても良いという雰囲気に職場がなってしまわないよう、心掛けている」